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紙芝居「がんばりやのけんさん」

 むかしむかし、上中にけんさんという男がいたそうな。とてもがんばりやで、何をやっても人に負けるのがきらいだそうな。そんな男だから、春になって田んぼに出るのも一番、草を取り出すのも一番、ご飯を食うのもくそをするのまで一番早いということだった。
 何から何まで一番でなければ気がすまないという男だったそうな。
 この村では、朝一番にすることは、福井の町へ行ってふんをもらってくることだった。天びんを肩に、前後にこえおけをにない、それは大変な仕事だった。
 福井の入り口に、荒橋という橋がある。作さんは、自分はけんさんに比べて背たけは高いし、力も強い。それなのにまだけんさんを負かしたことがなかった。何をしてもけんさんに負けてしまいます。今日はひとつけんさんをぐーっと言わせてやろうと、ふんを少なめにくんで、いそいで荒橋まで帰ってきた。
 ところが、なんでも一番のけんさんは、すでに橋のらんかんに腰掛けて、たばこをすっている。作さんが見えると、さーっと立って、天びんに手をかけようとする。
「おーい、けんさん、ちょっと待て。今日はひとつ、村まで競争しよう。」
「おー、よーし、競争しよう。」
「おれも一服するまで待てま。」
  一服が終わると、よーい、どん、で、競争が始まった。作さんは、荷は軽いし、力任せに歩き出した。前へ前へとけんさんを後ろに、ぐんぐん進んだ。けんさんも負けてたまるかと一生懸命に追いかけた。
 しかし、作さんは、力が強いし、足も速い。丸山をすぎるころには二十間は離していた。けんさんは負けてたまるかと汗をかきかき懸命に追う。さすがの作さんも疲れてきた。力まかせにいっさんに歩いていたものだから、だんだん足が重くなる。新保をすぎるころにはけんさんとならんでしまった。
 そして、追分の部落に入るころには前になってしまった。後ろも見ないでどんどん進む。作さんは、
「やっぱり、負けじゃわい。」
と、くやしがったが、どうにもならない。かるくつんだつもりのこえおけがぐーっと重くなった。足が前に進まなかった。けんさんは、振り向きもしないで一心に前へ前へと歩いた。上中についてやっと後ろを振り返った。
 すると、作さんが見えない。「へたばったな。はじめにがむしゃらに歩くからだ。」 と思いながら、 「今日も負けなんだ。」 と、得意がったそうな。

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