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紙芝居「天王堂様の天狗さん」

 昔、昔、上中に清七さんという男がいました。すごく物知りで、太閤さんといわれていました。
 一方、上中には、天王堂さまというお宮さんがありました。このお宮さんは森に囲まれていて、天狗さんが住んでいるといううわさでした。天狗さんの目玉はぎょろりとして、鼻が高く真っ赤な顔をしていたそうです。
 だから、暗くなってからは、天王堂さまを通ったり、近寄ったりする者はいなかったそうです。
 ところが、清七さんは、天狗なんていないと近所のものに話していたそうです。
 ある秋のことでした。 となり村の祭におよばれした清七さんは、ついついごちそうになり、お酒もたくさん飲んだので、帰りは夜道になってしまったそうです。
 貸してもらったちょうちんを手に持って、およばれのごちそうを背中にかついでよい気分で帰ってきたそうです。
「天王堂さまを通れば近道。えーい、天狗なんかいるもんか」 と、真っ暗な中へと入っていったそうです。 いつも通る道、森をぬけるのはすぐだと思いながら、どんどん歩いたそうです。
 ところがどうしたことか、いくら歩いても森をぬけられないそうです。おかしいなと思いながらぐんぐん歩くのだが、どうしても森をぬけることができません。
「どうしたんかな。よわったな。」 目をこすっても何も見えない。
「よわったな。あと五・六分歩けば家だというのに」
「よわったな。よわったな。」
  さすがの太閤さんと呼ばれている清七さんも「よわったな」の連発だったそうです。
 そうしていると、目の前の大きな木の上がぼーっと明るくなってきたそうです。「ありゃありゃ。」 と思っていると、目の前が急に明るくなって話に聞いていた天狗がふわーっと立ったそうです。清七さんはびっくりして、こしがぬけてしまったそうです。
「こらーっ、清七。お前は、村で太閤さんなんていばっているようじゃが、おれが見えんかーっ。」
「見えます。見えます。天狗様がいないなんて、もう言いません。ゆるして。ゆるして。」 と、あやまったそうです。
「お前が背中に担いでいるごちそうをおいていけー。」
「はーい、はいはい。さしあげます、さしあげます。どうぞおゆるしを。」
 すると天狗さんはすーっと消えてしまったそうです。
 家では、清七さんが帰らないので、おおさわぎ。村の人を頼んでさがそうということになったそうです。 強そうな男が五人も集まったので、ちょうちんにたいまつを持って、ますをたたくと天狗は耳が痛くなっていたずらができなくなるというので、ますをたたきながら天王堂さまへと向かったそうです。
 たぶん、この道を通ったにちがいないと、 「おーい、清七さん。おーい、太閤さーん。」 と、声をそろえて呼びながら天王堂さまの中へ入っていったそうです。
 お宮さんの近くまで行くと、清七さんが道ばたで寝ていたそうです。
「おい、清七さん。こんなところで寝ているとかぜひくぞ。起きろ、起きろ。」
「ゆるして。ゆるして。」 と、清七さんが言うので、
「おい、清七さん。どうしたんや。」ときくと、「天狗が出たー。」 と言ったそうです。
 今は、上中の八まん神社にまつられている二体のうちの一体が、天王堂さまです。

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