遺伝性球状赤血球症ってどんな病気?



赤血球は、普通中央部がへこんだ直径約8ミクロンの円盤状の形態をしています。
赤血球は骨髄でつくられてから血液に送り出されて全身を循環しておおよそ120日でその寿命を全うして脾臓で破壊されます。したがって、全赤血球の約1%が日々破壊されていることになり、一定の赤血球を保つためには、それに見合う赤血球が骨髄で新たに作り出される必要があります。

しかし、球状赤血球症では、赤血球が球状であり、脾臓での赤血球の破壊が速過ぎて骨髄での赤血球の新生が追いつかない状態になり、溶血をおこしてしまうのです。(溶血性貧血)

1.頻度
わが国での先天性溶血性貧血では、最も頻度が高く、その約70%と推定され、罹患率は人口100万人当たり約5〜20例といわれている

 

2.疫学

(1)性差なし
(2)遺伝形式:大半は常染色体優性遺伝であるが、全体の約1/3に孤発症例が認められる。また、ごくまれに常染色体劣性遺伝例もみられる

 

3.臨床的特長

A:背景因子
既往歴として、(1)小児期からの貧血、黄疸、脾腫の存在、(2)成人例では、胆石症、胆嚢炎、肝障害、(3)感染症、ストレス、薬剤服用後、一過性の貧血、黄疸の増悪などが挙げられる。(4)家族歴としては、両親、兄弟、おじ、おば、祖父母に原因不明の貧血、黄疸、もしくは、胆石症、肝障害を有する者がいる。

B:重症度

1.軽症
  約1/4の症例がこの郡に入る。溶血は軽く、成人に達して初めて発見されることが多い。そのための慢性の溶血による胆石症(45〜85%)、肝障害の合併が多い。そのため、貧血はなく無症状の場合が多い。また、黄疸も軽く、見落とされることも多い。脾腫はあっても、軽度である。赤血球形態変化は軽く、球状赤血球も少ない。また、遺伝歴について検討する際、家系内患者がこのような無症状例の場合は見逃されることがあるので注意を要する。

2.中等症
  約60%の症例がこの群に入る。幼児期より発見され、間欠的に増悪する非代償性溶血性貧血、中等度の黄疸を示し、脾腫も種々の程度(2〜6p)認められる。

3.重症
  頻度は少なく約5%前後である。乳幼児期から輸血を必要とする高度の溶血性貧血を呈し、そのために幼児期に摘脾術が必要となる場合が多い。成人でみられる場合は、むしろ軽症例の造血障害発作に起因する。

 

4.治療、管理と予防

 脾摘が最も有効であり、全例が適応となる。一般に相対的対応であるが、その条件としては、

(1)年齢は一般に5〜6歳以後で非代償性溶血性貧血を呈する症例。ただし重症型で頻繁に輸血が必要となる場合は小児例でも早期に摘脾を行う。

(2)溶血が代償されている無症状もしくは軽症例の場合であっても、長期的経過をみると感染症などに伴うcrisisの併発、または
胆石症、それに伴う肝障害や、閉塞性黄疸を合併する危険性が高い。よって、そのような合併症を予防する目的で比較的早期(10歳代〜20歳代)に摘脾を行うことが望ましい。

(3)HSの
脾腫は中等度までであるが、外傷による脾臓破裂予防のため、特に小児例では摘脾を行うこともある。

 

5.輸血について

急激な溶血をおこした場合、輸血はかかせないものです。最近では輸血前の細かい検査もありますし、輸血による事故はほとんどないようですが、0ではありません。生死にかかわる貧血の場合、輸血は大変効果的ですが、少し副作用について述べておきます。副作用は必ずおこるものではありませんし、むしろ現在はほとんど安心です。

(1)即時型副作用
 
★輸血による副作用
 輸血中、または、輸血後数時間のうちにおこった副作用で、型不適合による、すなわち、A型の人に間違ってB型の輸血をするなどのときにおこるものです。医療従事者はこのようなことがおきないよう、たえず輸血のときは厳重な注意を払っているのです。症状としては、まず身体がだるくなり、腰痛、悪寒(さむけ)がでます。そのうち赤黒い尿がでるとともに、胸痛、呼吸困難、ショックなど重い症状となり、治療がおくれると命をおとすことがあります。

★発熱反応
 輸血したあとで、さむけと高熱が一時的にでることが時としてあります。熱は大抵数時間のうちに下がります。原因としては、白血球抗体、つまり、血液に含まれている白血球のうちのリンパ球の抗体ができている人におこりやすいといわれています。過去に何回も輸血を受けている人は、リンパ球抗体ができることがあり、そういう人は、輸血によって発熱がおこりやすいのです。

★蕁麻疹
 輸血をしている途中、あるいはあとで蕁麻疹がでることがあります。これも過去に何回か輸血を受けた人にでるようです。蕁麻疹だけでは心配ないのですが、ひどい人は喘息のような発作までおこる人がいるようです。

(2)遅発型副作用

★遅発型溶血反応
 輸血後、5〜7日目に黄疸症状をおこしてくるもので、溶血による黄疸です。赤血球には、ABO型では自然抗体といって生まれながら抗体をもっているので、血液型を合わさないととんでもない副作用がでることは前に述べました。しかし、赤血球には、ABO以外にいろんな血液型があります。しかしこれら血液型に対する自然抗体はありません。具体的にいうと、Rhという血液型は、型物質は赤血球にありますが、これに対する抗体はありません。Rh型は陽性の人と陰性の人に二通りに分けられます。Rh陰性の人は極めて少なく、1000人に5人位です。もしRh陰性の人にRh陽性の血液を輸血するとその人にRh抗体ができることがあります。そうすると次にRh陽性の血液を輸血すると溶血の副作用をおこすのです。ですから血液型はABOのみならずRh型の検査も必要で、Rh陰性の人は、ABO型を合わせるばかりでなく、Rh陰性の血液を輸血しなければいけないのです。Rh陽性の人はRh陽性でもRh陰性でも輸血できるのです。

★輸血紫斑病
 輸血後7〜10日ぐらいたって、体のあちこちに皮下出血、歯ぐきからの出血などおこしてくるものです。原因は輸血により血小板が少なくなっておこるのです。女性ではやはり過去に輸血したことのある人におこりやすいのです。

★輸血による鉄沈着症
 貧血には、出血の時のように鉄分も欠乏しているものと、再生不良貧血のように、貧血はしているが鉄分は不足していないで正常にあるものとがあります。再生不良性貧血の患者さんは、造血機能が冒されていますので、何回も輸血しなくてはなりません。輸血された血球は、そのうちにこわれてしまいますが、赤血球の中にある鉄分は次第に過剰となり、肝臓などの臓器に沈着してゆきます。この沈着した鉄分が臓器の機能を冒してゆくということになるのです。

★輸血後肝炎
 昔は輸血は売血者から採血して行っていましたので、輸血による肝炎がかなりあったのです。輸血が献血制度にかわり、血液センターで採血するようになってから、HB肝炎ビールスのチェックを行っていますので輸血によって発生したB型肝炎は著しく減少し、殆どないといってもいいでしょう。しかし問題になるのが非A非B肝炎です。今や輸血後肝炎といえば、非A非B肝炎といっても差支えないでしょう。非A非B肝炎は輸血をうけた人の10〜25%にみられるといわれています。肝炎にかかった人のうち約半数はまもなく治りますが、あとの半数は慢性化し、慢性肝炎となり、そのうちの20%は肝硬変になるというやっかいなものです。ですから、HB型肝炎のように早く血液からHBビールスをチェックできるように、非A非Bビールスをチェックする方法の開発が望まれるわけです。現在非A非Bビールスがやっと発見された段階なのです。それまではビールスかどうかもわからず非A非B肝炎に対しては、その予防が全くお手上げの状態でした。現在非A非Bをチェックすることができ、輸血による非A非B肝炎の発生を防ぐことができるようになりました。



〜知識として必要な輸血と血液〜
大阪赤十字病院副院長 星崎東明著 誠之書房 より抜粋

5.肺炎球菌について

★肺炎球菌とは?

子供の肺炎・髄膜炎・肺血症・血流感染・耳感染・副鼻腔炎をひきおこすもっとも多い原因となる細菌です。脾臓のない子どもは、他の子より重い肺炎にかかる可能性が13倍も高いので、脾臓摘出の前後に接種した方がよいでしょう。ワクチンを接種した人の10%以下に注射した所が赤く腫れて痛むことがありますが、発熱は見られません。


〜予防接種は安全か〜
ポール・A・オフィット&ルイス・M・ベル著  日本評論社より抜粋