KenYaoの生命研究室


制作1999年03月23日
更新2008年01月03日
更新2019年09月27日


エコ指向

生命と地球環境

20世紀になって産業革命が急速に発展し、消費社会を生み出し、そして生活は豊かになった。しかし、その変化は生活環境を急激に変えてしまった。地球に人類が登場して200万年、現代人が登場してから約20万年、この20世紀の数十年の変化はどの尺度からみても変化は急激すぎた。このままでは、人類は「地球という生態系を破壊してしまう」というまるで、ガン細胞のような役を果たすことになる。

20世紀後半オイルショックの頃から、人類の行為を、生命環境(生態系)維持の視点からの告発する試みが登場した。「人は生態系の中でいきる生物の一員にすぎない」という認識が、私たち自身に芽生えようとしている。

2008年から京都議定書(1997年)の約束期間が始まる。日本は2012年までに、温室効果ガスの総量を1990年比で6%削減することになる。ようやく世界が、問題の深刻さに目を向け始めたようだ。しかし、議論に多くを費やす時間はなく、「低炭素社会」への転換スペードが問題となる。

2015年ポスト京都となるパリ協定がまとまり、2020年以降の国際的枠組みがまとまった。しかし、2016年USA大統領になったトランプ氏は地球温暖化に対する懐疑論者で、2017年パり協定からの離脱を表明した。救いは米国の多くの自治体や企業が気候変動対策の継続を表明している点である。中国(世界1位の温室効果ガス排出国)の対応が注目されたが、パリ協定に留まる選択をした。

近年日本では雨の降り方の激変(2004年7月の新潟・福島豪雨、福井豪雨)で、毎年のように洪水や土砂崩れが頻発している。また、台風の大型化で大雨に加えて強風の被害が目立つ。冬期の降雪が、毎年太平洋側でも見られるようになった。
環境少女グレタさん(16歳)の危惧が現実になれば、2030年頃には・・・地球の近未来の運命が決まる。

成長の限界

●人口増加

現在、人は毎秒3人死亡し、その倍の人間が生まれているという。1世紀前なら幼児の死亡率は高く、この割合は50%程度であった。しかし、現代医学と公衆衛生の進歩は乳児の死亡率を激減させ、その結果世界の人口は毎年1億人ずつ増加している。
1825年の世界人口は10億人であった。100年後20億人になり、その後50年で40億人になった。米商務省の予測では、1999年では60億人となった。このままの割合で増加すれば、2050年に100億人を越える。(参考1/p445)

人口の増加は、深刻な食料不足を招く。食料増産のための開墾や、木材資源採取のため森林が急速に失われていく。
都市周囲は食糧に加え住宅・エネルギー・産業資材として森林の開墾が行われる。やがて地域の保水力がなくなり、洪水・土砂流出・河川生態系の破壊、そして水不足。最期に砂漠化に至る。古代文明の発祥地がその例といえる。

●ガイア


ガイアとは、古代ギリシアの母なる大地の女神であった。
1979年、イギリス人科学者ジェームス・ラブロックが唱えたガイア仮説は、地球を一つの生命圏(すなわち一つの生命体)として捉える視点を提示し、全世界の注目を集めた。

ラブロックが1960年代からNASAの火星生命探査計画に参画し、火星と地球の大気成分があまりに違うことに気がついた。

惑星の大気組成 by J.Lovelock
惑 星Co2窒素酸素アルゴンメタン表面温度気圧
金 星96.5%3.5%微量70ppm0.0459゚C90
火 星95%2.7%0.13%1.6%0.0-53゚C0.0064
無生命の地球(推測)98%1.9%0.00.1%0.0240〜340゚C60
いまの地球(生命の影響)0.03%79%21%1%1.7ppm13゚C1気圧


いまの地球の大気の特殊性を、生命活動の結果(光合成による大量の酸素放出、CO2の取り込み)としてとらえ直すことで、地球を一つの有機生命体(ガイア)という発想が生まれた。

ラブロックのいうガイアの健康状態は、必ずしも人類の繁栄と一致するわけではない。なぜなら、ガイアは地球上の全生物、とりわけ小さなバクテリアなどがふくまれている。ガイヤの持つ自然治癒力の維持にとって最優先は、熱帯雨林と水生生体系の保護にあるという。


環境問題

●化学物質汚染

1962年、女流作家レイチェル・カーソンの著書「沈黙の春」が米国で発表された。農薬を含む化学物質の氾濫に警鐘をならす告発書としてマスコミから注目され、製薬企業や政府機関との非難合戦にまで発展した。しかし、環境への影響が明らかになるにつれ、米国政府は方針を変え農薬の規制に向かうことになった。

「沈黙の春」・・・より抜粋

●自然は、沈黙した。うす気味悪い。鳥たちは、どこへ行ってしまったのか。(1章)
●自然とは縁もゆかりもない、人工的な合成物に、生命は適合しなければならない。(2章)
●人間のからだは、いまやさまざまな化学薬品にさらされている。(3章)
●自然界では、一つだけ離れて存在するものなどないのだ。(4章)
●薬品スプレーは昆虫ばかりでなく、昆虫の第1の敵、鳥をいためつける。(8章)
●なぜまたある人は、ほこりや花粉にかぶれるのだろうか。ある毒に敏感に反応するのはなぜか。(12章)
●何世代もDDTのスプレーをうけた蚊は、雌雄モザイクと呼ばれる不思議なものにかわってしまう。雌でもあれば雄でもあるという奇妙な蚊だ。(13章)
●ペスト伝播の立役者であるトウヨウネズミノミにも、DDTがきかなくなった。(16章)
●私たちの住んでいる地球は自分たち人間だけのものではない。(17章)

カーソン女史の「沈黙の春」は、化学物質による自然破壊に警告を発した先駆書としてその後の環境運動に大きな影響を与えた。

●環境ホルモン

<ウイングスプレッド宣言>

環境問題に関心があったコロラド在住の主婦ティオ・コルボーンは、51歳から大学院で勉強はじめ博士号を取得。彼女は5大湖の水質汚染の研究を始めると野生生物の異常に気が付いた。しかし、人体に対する影響につては確たる証拠が得られずにいた。彼女は世界中の論文を集め、その中から4つの研究に注目した。
  • フロリダ半島の雄ワニの生殖器異常(フロリダ大)
  • イギリスの川魚ローチ(鯉の一種)の精巣異常
  • デンマーク男子の精子数の半減(デンマーク国立大)
  • 乳ガン細胞の増殖を促す女性ホルモンと同様に作用する化学物質(タフツ大)
1991年7月、2年の準備期間を経てコルボーンが中心となって環境問題に関する会議をウイングスプレッドで開催した。集まった研究者たちの発表後、会議参加者は環境ホルモンに関する警告を社会にアピールする必要性を感じ、宣言として発表した。

<低濃度効果>

ある種の環境ホルモンは、低濃度になるほど動物の生殖に影響を与えることが判明した。環境ホルモンの毒性検査を根本から問い直す問題である。

●都市生活とゴミ処理

便利な消費経済の進展で、都市生活から大量のゴミが発生し、それが年々増加している。ところが環境汚染に敏感になった人々は、都会のゴミを田舎に持ち出すことに反対するようになった。そうなるとゴミ捨て場の寿命は一気に短縮され、問題は深刻化する。都会では住民の了解を得ることはさらに難しく、新たなゴミ処分場ができるケースは少ない。わたしたちに残された道は、ゴミを減らすことである。
徹底したゴミの分別収集を行い、リサイクルのシステムが出来ているドイツでは、処分場に持ち込まれるゴミの量は分別前の約1/50(ミュンヘン市)にまで減ったという。

地球環境

●地球温暖化の科学

地球は水を循環させて、その環境を自己調整している。大気と陸地と海の間を循環する水は、熱せられて水蒸気となり、上空で冷やされ雨や雪となり、再び海に戻る。
赤道地域の熱は、主に台風や海流によって高緯度地域に運ばれる。
  • 10万・100万年のサイクル
    地球は約2億年前から、おおよそ10万年のサイクルで、温暖・寒冷のリズムを刻んでいる。これは、地球が太陽を周回する軌道の離心率変化のゆれとほぼ同じサイクルだと言う。およそ100万年前から、地球に氷河期が周期的に出現する。(参考2/3章)

  • 温室効果ガス
    CO2・メタン・亜酸化窒素・オゾンなどの温室効果ガスといわれるものは、地球全体から宇宙空間に失われる熱放射を妨ぐ。温室効果の大きさを言えば、総量からも水蒸気(H2O)のほうが遙かに大きく、地球上の熱の循環を司っている。しかし、地球上の水蒸気濃度はこの数十万年変動はなかったと考えられる。(参考6:P17)問題は、他の原因で水蒸気の温室効果が大きく変動することにある。

  • 森林
    森林の炭素埋蔵量は過去200年で激減し、現在2000億トン以下になったという。森林が農地に変換されると、樹木などの植物の炭素が90%以上CO2となって大気中に移動する。(参考2/5章)

  • 海洋の循環:深層流
    海底深くながれる「深層流」の存在が知られている。深層流は、地球全体に熱・塩・CO2を輸送するベルトコンベアーとも言われる。(参考2/5章)

温室効果ガスの種類(参考6/P16)
温室効果ガス温暖化係数用途・排出源
二酸化炭素1化石燃料の燃焼
メタン21燃料の漏洩、農業
亜酸化窒素310燃料の燃焼
オゾン層を破壊するフロンCFC、HCFC数千〜1万スプレー・エアコン・冷蔵庫
オゾン層を破壊しないフロンHFCs数百〜1万冷媒、発泡剤
PFCs数千〜1万半導体洗浄
SF623900半導体洗浄、電力の絶縁体



●地球温暖化の現実

世界の平均気温は上昇している。
人類が産業活動などで排出するCO2などのガスが地球の温暖化を招くという研究はあったが、1980年代末までは確かな証拠は存在していなかった。ところが、1988年、突然その証拠が現れた。そして、世界の政治家たちもこの問題の重要性に注目するようになった。

1981年「サイエンス誌」発表1988年発表
ジェイムズ・ハンセンイースト・アングリー大学研究チーム
(米、ニューヨーク、NASA研究所)(英、ノリッジ)


長期にわたる世界的気温の傾向について研究してきたジェイムス・ハンセンのグループは、1981年に100年間の分析を発表した。
さらにデーターの更新と追加が行われ、1988年ハンセンはアメリカ上院で「人間活動を原因とする温室効果は確かにある」と証言した。(参考2/第1章)
温室効果は世界各地で異常気象(豪雨・台風の巨大化・熱波・砂漠化)の恒常化、海水位上昇を招く。

南極の氷棚の大崩壊が起こってしまえば、もはや後戻り出来なくなる。海水位上昇がさらに、地球自身を温暖化へと舵を切る転機に導く。小さな崩壊(2000年ロス海の巨大氷山分離)はすでに起きている。残された時間は少ないとハンセン博士は警告する。(NHK放送2008年元旦番組)

●低炭素社会へ

温暖化が進むと世界経済はどうなるのか。「気候変動の経済学」という報告書を記したイギリスの経済学者ニコラス・スターン博士は「このまま対策をせずCO2が増加していった場合、世界経済が被る損失は“世界大戦並み”になる。いま対策をする方が予測される損害より安くつく」と訴える。
現在の市場原理だけでは、温暖化の損失は誰も負担していない。早く、低炭素社会へ誘導する制度を確立しなければならない。

・スエーデン2021年物語
スエーデン政府は1996年、25年後の2021年(=1世代後)の持続可能な社会実現のためのビジョンとその行動モデルを用意して、プロジェクトを開始した。(参考7:P35)

2021年のスエーデンの姿(15の環境目標より)
  • エネルギー効率の良い小さな家に住む
  • 食料生産に使われるエネルギーは1/3に減少する
  • 消費する肉は、放牧地で育てられた牛や羊である
  • 交通手段はエネルギー効率の良い乗り物。ただし、店や職場までの移動はITコミュニケーションに取って代えられる
  • 60万haの農地が作物からバイオエネルギーの生産に転換される
  • 家庭用品と家電は、現在の1/4のエネルギーと素材で作られる
スエーデンでは、炭素税を導入してエタノール価格を下げ、バイオ車納入費・通行税・市内駐車費補助と社会制度を一変さている。(NHK放送2008年元旦番組)

●灼熱地球への転換点

・環境少女グレタさん(16歳)の出現
地球温暖化の未来予測を知った彼女は、2018年8月から毎週金曜日の学校を休んで、議会前にプラカードを持って一人ストライキを続けた。 その活動をSNSに投稿すると賛同者が集まり、それが次第に世界の若者達の共感を得た。
2019年9月23日、「国連の気候行動サミット」で将来を担う世代を代表してスウェーデンの少女グレタ・トゥンベリさんが、温暖化対策の即実行を訴えた。

「前略・・・10年間で(温室効果ガスの)排出量を半減するというよくある考え方では、(気温上昇を)1.5度に抑えられる可能性が50%しかなく、人類が制御できない不可逆的な連鎖反応を引き起こす恐れがある。・・中略・・地球の気温上昇を1.5度に抑える確率を67%にするには、IPCCの最善の見立てでは、2018年1月1日時点で世界に残されたCO2排出許容量は4200億トンだった。現在では3500憶トンを下回った。よくも従来通りの取り組みと技術的な解決策で何とかなるなんて装うことができたもんだ。現状の排出レベルでは、残されたCO2排出許容量は8年半ももたずに達してしまう。・・中略・・あなたたち(=各国指導者)を注視している。私たちを失望させる選択をすれば、決して許さない。・・後略」と演説した。


・温暖化による2100年の世界予想(IPPC特別報告書)
2019年9月25日、国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、地球温暖化が海面上昇や生態系にもたらす影響を予測した特別報告書を公表した。
  • 平均海面水位は最大1.1m上昇する
  • 沿岸の湿地は海面上昇により2〜9割が消失する
  • 欧州やアジアなど規模の小さな氷河のほとんどが、8割以上解ける
  • 海温の上昇により生態系に影響が及び、漁獲量は最大24%落ちる
  • 1年当たりの沿岸の浸水の被害は現在の100から1000倍に増加する
  • 海洋熱波が約50倍の頻度で発生する
  • 永久凍土の融解が進み、小さな湖が増える
  • グリーンランドや南極の氷床の融解が加速する


▼参考文献

  1. クリスチャン・ド・デュープ著(植田充美訳)「生命の塵」1995(訳1996)、翔泳社
  2. ジョン・グリビン著(山越幸江訳)「地球が熱くなる」1990(訳1992)、地人書館
  3. レイチェル・カーソン著(青樹梁一訳)「沈黙の春」1962(訳1974)、新潮社
  4. デボラ・キャドバリー著(古草秀子訳)「メス化する自然」1997(訳1998)、集英社
  5. ジェームズ・ラヴロック(スワミ・プレム・プラブッダ訳)「ガイアの時代」1989、工作社
  6. (株)日本総合研究所著「地球温暖化で伸びるビジネス」2008、東洋経済新報社
  7. 電通エコ・コミュニケーション・ネットワーク著「環境プレイヤーズ・ハンドブック2005」2004、ダイヤモンド社

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