KenYaoの天文資料館


1999/8/01制作
2000/8/26更新
2016/1/21追加

現代の宇宙論


人類は長い間、宇宙に関心を持ち、そして想像を巡らせてきました。

「どのようにして宇宙は生まれたのだろか・・・」

人類の宇宙観(宇宙論)は歴史の中で何度か大きな変革を経て、淘汰され、そのほとんどは消え去っていきました。そういう意味では、現在生き残っている宇宙論は貴重な財産と言えます。

20世紀になって、アインシュタインの特殊および一般相対性理論、量子力学が発表され、ビッグバン宇宙論が登場しました。天文観測の発達・物理科学の進展でおおくの観測手法や物理実験が開発され、間接的ではありますが理論を確かめる手だてを得ました。

それでは、現代の宇宙論をのぞいてみましょう。



宇宙の構造


●泡構造の発見

大型望遠鏡や電波望遠鏡の発達で、人類は遠くの宇宙を観測できるようになりました。1986年、ハーバード大学のハクラ博士とゲラー博士は天球上の帯状の範囲の銀河1079個の距離測定を行い、銀河が泡構造に分布していることを発見しました。
さらに調査する範囲を増やし銀河の数4000個余りを調べてみると、銀河や銀河団が集中する壁状の構造が明らかになりました。かみのけ座銀河団を中心に、長さ5億光年・幅2億光年・厚さ5000万光年の銀河の壁で、これをグレート・ウォールと呼びます。


●背景放射の揺らぎ

1965年に発見された、宇宙の背景放射は絶対温度2.7度で、どの方向からくる波も温度は一定でした。しかし密度が全く均一ならば、銀河や銀河団などの密度の高い部分ができたタネが必要だという考えが提案されるようになりました。
1989年米航空宇宙局(NASA)の探査衛星COBEが打ち上げられ、スムート博士らはCOBEで背景放射の温度を詳しく観測し、方向によってわずか「±3度/10万」という非常に小さな揺らぎを発見しました。




力の統一論


●量子力学の誕生

量子力学は原子や電子のような微小な物質を扱う世界です。
相対性理論が重力と時空と物質の関係を解き明かしたのに対して、量子力学は物質の持つ性質(波動と粒子の2重性)を統一してみせます。

量子力学の基礎をつくったのは、ボーア(デンマーク)、ハイゼンベルグ(独)、シュレジンガー(オーストリア)の3人です。特にハイゼンベルグの不確定性原理は、粒子でもある点が波のように振る舞うことを意味していました。粒子は確定した位置を持たず、ある確率分布で広がっているという。


●宇宙を創る4つの力

量子力学は素粒子研究に発展していきます。
1970年代になると、全ての力はゲージ粒子のやりとりによって生じるという、ゲージ理論が出現しました。その発端は湯川秀樹による中間子論で、原子核を結合させている核力はゲージ粒子である中間子のやりとりによるとういものでした。

自然界には基本的な4つの力が存在するといわれています。

力の種類作用範囲cmゲージ粒子(交換粒子)相互作用の強さ
重力無限大重力子(ヒッグス粒子)5.9x10^-39
電磁気力無限大光子(フォトン)1/137
弱い力10^-16弱中間子(ウィーク・ボソン)1.02x10^-5
強い力(核力)10^-13グルオン約1/4



●素粒子統一理論

1967年スティーヴン・ワインバーグ(米)とアブダス・サラム(パキスタン)はゲージ理論を発展させ、フォトンとウィーク・ボソンが本来同じものであるはずだと予言しました。
すなわち、電磁力と弱い力は本来同じ素粒子で、ビッグバン直後ある程度宇宙の温度が下がってきた段階で電磁力と弱い力に分かれていったものなのです。この理論は1973年、実験で確認されました。

強い力を加えて、3つの力を統一する試みを、大統一理論=GUT理論といいます。将来巨大な高速粒子加速装置が造られれは、観測される可能性があるといわれています。
さらに重力を加えた「4つの力」を統一する試みは、残念ながら暗礁にぶつかります。

2012年7月、周長約27kmある世界最大の高速粒子加速装置=LHCでの実験で、ヒッグス粒子が発見されました。ヒッグス粒子は1964年、ピーター・ヒッグスによって提唱された重力メカニズムの提案。その後、南部陽一郎の「対称性の自発的破れ」とういアイデアで、重力メカニズムを理論的に明らかにした。(参考文献6:P18-19)

●超ひも理論の登場

超ひも理論は1968年に、産声をあげた。ジュネーブ郊外の原子核研究センターCERNの若い物理学者G・ベネツィアーノと鈴木眞彦は、粒子の衝突を数学的に記述したS-マトリックス理論(ジェフリー・チュウが考案)があまりに多くの制限則に縛られているため、いっそのこと数式を予測しようと考えました。
偶然にも2人はそれぞれ別々に、19世紀の数学者オイラーのゼータ関数を発見。驚いたことに、S-マトリックス理論の公理をほとんどすべて自動的満たしていることが分かったのです。

このゼータ関数に意味を与えたのは、シカゴ大学の南部陽一郎でした。彼は素粒子を点粒子でなく、振動する「ひも」である考えました。しかし、1970年代後半には多くの矛盾を抱え込み、物理学の関心は大統一理論の方に移っていきます。
1984年、G・シュワルツとマイケル・グリーンは「南部のひも」の単位をさらに小さく「10^-33cm」とし、重力を扱える10次元の超ひも理論を発表しました。

しかし、なぜ10次元なのかといった問題や実証の難しさ、さらにこの理論を扱う数学の多様性が前途に立ちはだかっています。リーマン面・カックムーディ代数・超リー代数・有限群・モジュラー関数・代数位相幾何学・整数論・・などといた、数学の専門家でも舌を巻くほどの専門的な複雑さで、物理学者を困惑させています。



時間のはじまり


●空間と時間の統一(アインシュタイン)

ニュートンの理論では、時間の速さは宇宙どこでも一定で、時計は同じ速さで時を刻んでいることが基礎である。

1905年、アインシュタインの発表した「特殊相対性理論」は、観測者の速度に関係なく、光速が不変であるという最新の観測から、「ものの長さ」「時間の経過」そして「質量」までもが物体の運動によって変化するという結論を導き出した。つまり、「空間や時間は絶対的なものでなく、相対的なものである。」という。

●インフレーション(佐藤、グース)

1980年日本の佐藤勝彦、同年米国のアラン・グースが提唱した理論によると、宇宙は誕生してすぐ急激な膨張(インフレーション)を起こした。このとき宇宙の半径は、1秒の何分の1かの間に10の30乗倍(現在は100乗倍と考えられる)になったという。
誕生すぐの宇宙は非常に熱く、粒子は非常に速く動き、巨大なエネルギィーを持っていて、「強い力、弱い力、電磁気力」は単一の力に統一されていた。(大統一理論)
インフレーション理論では宇宙が膨張するにつれ冷えて、いわゆる相転移が起こり、力の分化が起きたと考える。「水を冷やしていくと凍る」はよく知られた相転移の例。インフレーションが終了すると、大量の熱が潜熱として宇宙に放出され、ビッグバン(通常の膨張宇宙)が始まった説明します。(参考文献4)

ところで、「液体の水」は分子の並びが対称的でどの点をとっても同じですが、「氷の結晶」ができ始めると各点ごとに方向性が生じ、凍ることで各部の歪みが固定されます。この歪みは、インフレーションが終わってビッグバンに引き継がれ、銀河をつくるタネ(背景放射の揺らぎ)になったと言います。その証拠がスムート博士らのCOBEによる背景放射観測だとホーキングは語る。(参考文献3)


●無から生まれた宇宙(ビレンケン)

宇宙は無から生まれたと、最初に科学の言葉で考えたのがアレキサンダー・ビレンケン(ウクライナ)でした。量子論でいう「無」とは、「時間と空間があって物質がない状態」ではなくて、「時間も空間も物質もない状態」です。

ビレンケンは、量子論的無はエネルギーの揺らぎがあってそこから物質と反物質がポット生まれてすぐ消える、ゆらいだ状態だと考えました。
ポテンシャル(位置)エネルギーから運動エネルギーに変わるとき、宇宙が誕生します。しかし、宇宙は大きさ0から成長するのではなく、トンネル効果である大きさ(10^-34cm)でぽっ!と誕生します。

宇宙は常に生成消滅を繰り返していて、われられの宇宙以外にも同時に他の宇宙が存在することになります。


●無境界仮説(ホーキング)

ホーキング(英国)は「我々の宇宙(時空)には境界とか端はない。」と言う。ちょうど時空は地球の表面の様なもので、宇宙は北極で始まりどんどん広がって赤道で最大になり、その後徐々に小さくなって南極でゼロになるイメージなのです。
ホーキングは量子論の波動方程式を虚数時間を使って計算し、宇宙誕生のシナリオを描きました。結果はビレンケンと同じ様に「無からの宇宙誕生」になります。

ホーキングの虚数時間は、最初計算のテクニックとして使われましたが、単なる方便に終わるのか実在するかは、さらなる学問の発展を待たないと結論はでません。ワインバーグ・サラム理論は「超伝導」の方便(アナロジー)を導入し、後に実証されたものでした。



▼参考文献
  1. NHK取材班著「銀河宇宙オデッセイ」1990、日本放送出版協会
  2. ミチオ・カク/ジェニファー・トンプソン著「新版アインシュタインを超える」久志本克己訳1997、講談社
  3. S.W.ホーキング著(林一訳)「ホーキング、宇宙を語る」1989、早川書房
  4. 佐藤勝彦著「最新・宇宙創世記」1993、徳間書店
  5. 高橋清一著(長谷川哲夫監修)「宇宙・地球の神秘と謎」1998、日本文芸社
  6. 広瀬立成著「よくわかるヒッグス粒子」2012、ナツメ社

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