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佳奈子は、夢を見た。それは、佳奈子の父がある飛行機事故で亡くなったと言う
報せを受けた、当時彼女が中学2年生のころの、その場面の夢だ。
佳奈子はそのとき、学校で部活動をしていた。テニス部だった。
いつもはあまり練習場所に来ない顧問の先生が、不意にやってきて佳奈子だけを別室へ
呼び出した。ちょうど季節は今と同じ位、夏の終わり。その訃報を聞いた瞬間、
佳奈子の周りの世界は白くなった。かいていた汗も、急に引いていく感じだった…

―†―

佳奈子:「………やっぱり、見ちゃったか…。」

父親の事を思い出して、涙を流す事は徐々に少なくなったとは言え、
その哀しみが消えることは無い。そしてこの時期になると、毎年決まってこの夢を見るのだ。
洗面台に行き自分の顔を見ると、頬に涙の痕があった。

冷たい水で顔を洗い、軽い部屋着に着替えて、朝ごはんを作った。
そしてリビングに置きっぱなしの、あのDVDのことを思い出してしまった。

佳奈子:「ああ……うーん…。そうだ、みんなに電話して聞いてみよう」

佳奈子は、心当たりのある親しい人たちにひとりずつ、電話をかけて尋ねてみた。
だが誰一人として、そんなDVDには覚えがないというのである。
そこで昨夜考えた、妙な筋書きがまた脳裏をよぎる。
昨夜以前にこんなものをカバンの中に見たことは無かったし、やはり、あの女性のものなのだろうか。

そこで、呼び鈴が鳴った。誰かと思いモニターを見てみると、その訪問者は見たことも無い人物だった。
帽子を深々と被り、うつむいているため顔も分らない。服装も男性か女性か判別しづらい。
マンションの入り口を開放するか否か悩む佳奈子。あからさまに怪しい人物だ。
だが、不意にその人物がカメラに向かって綺麗な長い銀髪をのぞかせる。それを見た瞬間、
佳奈子はあの女性だと確信し、驚きと戸惑い混じりの衝動で、扉を開放してしまった。

佳奈子:「ど、ど、どうしよう…。訳がわからないわ…」

胸の鼓動が激しくなる。緊張してしまう。
そしてついに、佳奈子の部屋の前に足音が響く。彼女がやってきた。
佳奈子は観念するような心持ちで、扉を開けた。すると目の前に現れたのは、
紛れもなく昨夜ぶつかった謎の女性であった。長い銀髪、紫系のメイクアップ。

???:「…意外と、冷静だったわね。すんなり開けてくれるなんて。まあ、こちらとしては助かったんだけど。」
佳奈子:「………。」
???:「その顔は…もうだいたい予測はついているようね。素敵よ貴女。あの時貴女に巡りあえて
本当に幸運だった。物分りの良い女性だし、私には劣るけど美人だわ。」
佳奈子:「え……。」
???:「その『え……』は何なの?貴女のほうが美しいとでも?」
佳奈子:「ち、違いますっ!」
???:「そうなの。あ、私は『レイナ』というのよ。そう呼ばれてるわ。よろしくね」
佳奈子:「は、はぁ…」

レイナ

佳奈子はあっけに取られてばかりだったが、そのまま玄関口で立ち話を続けるのは
よろしくない。レイナと名乗ったその女性に、部屋に入ってもらった。

レイナ:「センスのいい部屋ね。ますます素敵だわ、貴女。…あら、食事中だったのね。美味しそうな
プレーンオムレツ。中にチーズが入ってるわね。香りがするもの」
佳奈子:「あ、はい…。あの、お作りしましょうか?」
レイナ:「……それは嬉しいんだけど、どうしてそんなに貴女が畏まっているのよ?どう考えても、
私の方が無礼な立場にいるのに。面白いヒトね。さらに素敵。」

言われてみればそうなのだ。何故か自分の方が妙に緊張している。
良く分らない状況が続いているからだろうか。佳奈子の生来の冷静さはそのとき、どこかへ行ってしまっていた。

そして結局レイナの朝食も作り、取り留めのない会話をしながら食事を終えたふたり。
かなり不思議な感じだ。当たり前と言えば当たり前だが。
佳奈子は、妙な親近感を覚える。話をしていると、自分と共通している部分が多いのだ。
例えばそれは服の好みであったり、考え方、そして理想の男性像など細かな事だ。
一息ついて、レイナは本題に入った。

レイナ:「…そこの、テーブルに置いてあるDVD−ROM。あれは、私が貴女に預けたものよ。
と言っても、こちらが一方的に、だけどね。あの時は、ああするしかなかったの。
ごめんなさいね。あの後、まとわりついてた馬鹿どもは振り切ってやったわ。
もし捕まった時のために、と思って貴女のカバンに入れたんだけどね…。
…で…あの中身、見た?DVDの中身よ。PCでもデッキでもなんでもいいけど」
佳奈子:「いえ…一切見てません。正直言って、怖くて。」
レイナ:「そう。そうよね。本当にごめんなさい。」
佳奈子:「い、いえ…。あの…どうして、追われていたんです?」
レイナ:「……敬語はよして頂戴。それに私は若いのよ。今年で22歳…だと思うわ」
佳奈子:「あ、私もです。じゃなくて…私も今年で22歳よ。同い年ね」
レイナ:「同い年なの!?余計に素敵だわ、うんうん」

同い年だと分り嬉しかったのか、レイナの顔に、少し幼さを感じさせるような無邪気な笑顔が溢れた。
しかし、それも長くは続かず、真剣な顔つきになって言う。

レイナ:「どうして追われていたか、ね…。それに関して話し始めると長いし、第一…まだ良く知りもしない
こんな私の、しかも何か厄介事を抱えていそうな私の話を本当に聞きたい?」

佳奈子はその問いに、ハッとした。確かに、今回の出来事は日常からはるかに逸脱している。
下手に話を聞いて事情を知ってしまえば、この先不都合が無いとも限らない。
しかし一方で、何やらこのレイナに対して興味が湧いて仕方ないのである。何故なのだろうか。
ただの好奇心だけではない。奇妙な縁、とでもいうのだろうか。そんなものを感じていた。
それに今の発言をする際の、レイナの顔がひどく寂しそうに見えたのだ。

佳奈子:「私で良ければ、話してみて。何か自分でも良く分らないのだけど…あなたのこと、
妙に気になるし…今回こんな出会いをしたのも、何かの縁だと思えば…って…思うの」

それを聞いたレイナは、驚きながらも再び無邪気な笑顔を浮かべる。

レイナ:「……あなた、思いっきり素敵だわ。ちょっと変わってるけどね。アハ。」

―†―

その頃、時を同じくして警視庁では、とんでもない事態が発生していた。

何と、警視庁のメインコンピューターに、何者かが不正アクセスして侵入したのだ。
その人物の仕業なのか、数分間警視庁全体のコンピューターのサーバーに負荷が生じ、
確認すらままならないと言う状況が続いているのである。コンピューター技師が総出で
対策チームを臨時に結成し、対処に当たっているが、なかなか光は見えてこない。

しかし、突然だった。ようやくシステムの復旧を開始しようとした矢先に、全てが元に戻った

そこで、チームはすぐに被害状況を調べる方向に転換した。そしてすぐに突き止める。
不正アクセスしてきた人物が誰なのか、そしてその目的が何なのかを。

ある、未解決連続殺人事件の被害者のデータがある。被害者は2人。
だが、そのなかに見知らぬデータが一人分増えていたのだ。

―†―

すぐに捜査一課の本部に全てが伝えられる。不正アクセスによっていじられたデータとは、
マスコミの言葉を借りれば、あの『裁きの薔薇十字殺人事件』のものだったのである。
今回の騒動を引き起こした人物とは、あの犯人であろう。この際、何処からそのような芸当を
してきたのか、技師のチームが探ったが、努力空しく何もつかめなかった。
石田はデスクを叩きつけて激昂する。

石田:「くっそぉ!!!完全にナメていやがる!」
伊集院:「…冷静になれ!さきの不正アクセスで加えられた奴のデータからみれば…考えたくないが、
第3の被害者は風間泰幸(かざまやすゆき)…文部科学大臣だぞ。」

そう、増えていたデータとは現文部科学大臣の、風間泰幸のものだったのである。
今、風間の元に刑事が向かっている。何事も無ければいいのだが、と誰もが焦っていた。
風間は昨日から短く遅い夏季休暇に入り、職場には出勤していない。自宅に連絡したが、誰も出ないのだ。

風間泰幸

石田:「しばらく何の音沙汰も無ぇと思った矢先だ!これは一体何だ!?予告か、それとも既に実行後で、
俺たちの代わりに先にデータを加えてやったぞと、誇らしげにおちょくっているのか!?
くっそぉ、俺たちが何もつかめないからだ…あれから何の進展も無いからだ!」
伊集院:「よせっ!!感情的になるんじゃない!!」

ピリピリした雰囲気が本部を包む中、一本の電話が鳴った。
電話によれば、風間泰幸は、既に自宅で殺されていたという…。薔薇と、十字架の裁きによって。