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ティターニアは、震える手でレプラホーンの顔に触れました。レプラホーンはそのティターニアの手を、弱々しくも、しかし何よりも強く・・・握ります。そして優しく微笑みながら、言いました。「ずっと貴女を・・・捜し求めて参りました・・・。ああ・・まことに良かった・・・貴女がその手を真に闇に染める前に・・・馳せ参じることができ・・・私は、本望で御座います。私は、貴女を・・・ずっと御救いしたかった・・・闇の中に沈んでいく貴女に・・・微力ながらも・・・光を当てたかった・・・私は貴女のためならば・・これまでどのようなことでもして参りました。人を欺き、闇に葬る・・・。そのお力になることさえ。貴女の代わりに、手を汚すこと。そうすることが最善なのだと、思い込んでいたのです。しかし、愚かでした・・・私がもっと・・・このトリスタンのように強い意志、愛・・そう、情熱を持ち合わせていたのなら・・・貴女を闇から引き上げることが可能だったはず・・・。臆病風に吹かれていたのです・・・。全てを棄ててでも、貴女を・・・。くっ!!・・・・ぐふっ・・・。」レプラホーンは苦しみながらも、ティターニアの手を握る強さだけは緩めません。ティターニアはガタガタ震えながら、そして大粒の涙を流しながら、唇を噛み締めています。何も言うことができません・・。

そしてレプラホーンは、トリスタンの方に顔を向けて言います。「高貴なる騎士、トリスタンよ・・・かの時は、貴公たち・・・を闇に引きずり込もうとしてしまった・・・。その罪は贖えるものではない・・・赦しを乞う訳ではないが・・・この・・ことだけは理解して頂きたい・・・ハァ、ハァ・・・・ティターニア様は・・・御産まれになられたときより・・・邪念の渦巻くなかにおられたのだ・・・ティターニア様の家系は、かつての権力争いにより没落し・・・世のもの全てに邪な意志を表出するようになってしまった・・・。復讐、憎悪・・・。邪悪な悪魔の術が伝わるのもそのためだ・・・。姫様は・・実の御両親と口を御利きになられたことがたったの一度もない・・・。御父上、御母上は姫様の全てを魔術師に御任せになり・・・邪な教育をなされた。姫様と顔を合わせても顔色ひとつ、表情ひとつ変えずに・・・。そのような中で、姫がどうして光に触れることができようか!?姫はそれでも、御自分を皆に・・・そう、特に御両親に認めてもらうため・・・気に留めてもらうため、ただひたすらに・・・闇の中に身を沈めていったのだ・・。いつかきっと、誉めていただける、抱き締めてもらえると・・。ご両親がお望みになるのなら、進んで・・・!それがどうだ!!御両親は姫と関わる全てのことに、他人を介し続けた!!ハァ、ハァ・・・そのうちティターニア様の自己表現、自己実現の唯一の手段が、邪悪な行為になってしまったのだ!!闇を走り続けることだけが、姫様の・・・。止まることができなかったのだ・・・・。そして・・・私はそんな姫を心から愛している・・・哀れみなどではない。姫様の憂いを・・・ほんとうの姫様の心に触れたと、感じられた時から、ずっとだ・・・。私と姫が初めて互いを知り合ったあの時だ・・・。姫がお庭で、ある鴨の親子を御覧になっておられた時・・・1羽の幼い鴨が他の子供の鴨たち、そして親鴨よりも上手く歩くこと、泳ぐことができずに・・・そのまま遅れて、置いていかれてしまったのだ・・。親鴨たちも気付かなかったのだろう・・。姫様はそれを御覧になって、うつむいたまましゃがみ込み・・肩を震わせていた・・・その鴨と御自分を合わせ・・・自分が他より劣るからこそ、御両親にかまってもらえないのだと・・・。認めてもらえないのだと・・・。私はすぐに、その子鴨を家族の元へ・・連れて行った。すると鴨たちはひどく喜んでいたようだった・・。姫はその時私に一言、素敵な笑顔で「ありがとう。」と言ってくださった・・・そして喜ぶ鴨を私と共に見ていたときの姫の御顔は、一生忘れることがないだろう・・・。私は、ティターニア様の御家に仕える騎士であったからな・・。姫様のことは、幼いころよりずっと見ているのだ・・・。」

哀しみの妖姫と赤騎士

「もうそれ以上口を開かないで!!血が・・血が止まりません・・・!!レプラホーン・・・レプラホーン・・・」ティターニアは叫びます。ただでさえひどい怪我なのに、構わず話し続けるレプラホーンの状態は、悪化の一方なのでした・・・。そしてトリスタンは涙を流しながら、レプラホーンの話を聞いていました。「ああ・・・・何と言う事だ・・・ティターニア様・・・・。貴女はそんな深い闇の中でたったお一人で・・・いや・・・。レプラホーン・・・・貴方には・・・この上ない敬意を表したい・・・貴方はずっと姫を見守り、理解し・・・支えてきたのだね・・・。貴方はここで息絶えてはいけない方だ・・・・。」「ふふ・・・見守る・・・か・・・私は貴公ほど強くはない・・・。あの時見た姫の笑顔をずっと見続けるために、行動できなかった・・・。貴公のように自分自身を磨き・・・姫様をすべて御守りする覚悟ができなかった、ただの臆病者だ・・・。ハァ、ハァ・・・ハァ・・・私が早く、姫様をあの悪しき家から連れ去ることができていたなら・・・。姫とオベロン侯爵の御結婚が決まった時さえ、私は何もできなかった・・・・・・その結果姫はますます・・・。」「あ、ああああ!!わたくしは、わたくしはぁ!!」ティターニアの悲痛な慟哭が、森に響きます・・・。

そして・・・哀しみのなか、「神よ助けたまえ」そうトリスタンが祈った瞬間、トリスタンの視界はパッと光に包まれます。その眩しさに、トリスタンは思わず目をつぶります。「くっ!?」そして・・・目を開けると、そこは水の中でした。目の前には荘厳なお城が建っています。「い、いったい!?」水の中にいるのですが、地上と同じように息もできれば、身体も軽く感じられます。状況が飲み込めないトリスタンの前に、光とともに一人の美しい姫が姿を現しました。その姿を見た瞬間、トリスタンは思わず・・・「は・・・は・・・母上!!」と叫びます。その姫はブランシュフルールと瓜二つだったのです・・・。トリスタンにとっては肖像画でしか見たことのないブランシュフルールの姿でしたが、はっきりとそう言えました。しかしその姫は、静かに話し始めました。「わたくしは貴方の御母様では御座いませんわ・・・。どれだけ姿が似ていたとしても、わたくしは全く別の存在です・・・・。突然で貴方の今おられる状況が理解できないことでしょう・・・。ここは、湖の城・・・わたくしの城です。ここが何なのか、何のために存在するのかは、お話することは叶いません。ですが、これだけは申し上げましょう。わたくしは湖の姫ヴィヴィアン、比類なき神聖な存在に御仕えするものですわ・・・。」

湖の姫ヴィヴィアン 瓜二つのブランシュフルール

み、湖の・・・・。」「今、ランスロットと言う名を思い浮かべましたか?そう、わたくしはランスロットの守護者なのです。ランスロットを幼いころよりこの城で騎士として御育てしたのは、このわたくし。ランスロットは、今は亡きベンウィック国の、バン王の王子なのです。」「ベンウィック・・・!突如滅んでしまったと言う・・・神秘性の高い・・・・・」「そうですわ。ですが、人間には知ってはいけないことも御座います。深くお尋ねにならぬようにお願いしますわ・・・。ランスロットも、殆ど何も知っていないのですよ。さて、ここに貴方をお連れしたのは他でも御座いません。貴方を御助けするためです。ランスロットは貴方の身を案じて、わたくしに貴方を御救いするよう求めてきたのです。聞けば、貴方の円卓の座が音も無く突如崩れ落ちたとか・・・そのような報せがあるということですから、貴方も・・・・。はっ!!いえ、何でも御座いません。」「ランスロットが・・・。・・・・私は今、神聖な経験をしているのですね・・・。俄かには信じられませんが・・・」「その賢明さは、やはり天賦のもののようですわね。・・・貴方の命は今、危機にさらされています。このままでは毒が体中にめぐり、息絶えてしまうことでしょう・・・。私は時を操ることができるのです。今、貴方をここにお連れするため、あの場の時を止めています。貴方は今精神のみがここにいる状態です。ですから毒の痛みなど、感じないはず。さて・・・貴方の身体にかかっている時間を逆に戻せば、貴方の身体から毒は消え去ります。そう、傷すらも・・・。」「何という力でしょう・・・。そうすれば、私のみならずレプラホーンの傷も癒えるのですね!!」トリスタンは歓んで言います。しかしヴィヴィアンは言います。「残念ですが、精神でなく物理的な身体に対する、しかも時を戻したり進めたりする魔法は、止めることよりも非常に魔力を消耗します。貴方がた人間の時で言えば、10年に一度ほどしか使うことができません。ひとたび使えば、私は今の姿すら保てなくなり、子供の姿に戻ることでしょう。つまり、一度きり、しかも一人に対してのみと言うことですのよ。」

これを聞いたトリスタンは落胆します。「な、何と言う事なのでしょう・・・。このような奇跡をお受けできると言う機会に嘆くこと自体が愚かなこと(普通ならば2人とも亡くなるであろうから)だと分っているのですが・・・ああ・・・私は・・・」「貴方は・・・・どうやら迷っておいでのようですわね・・・。いえ・・・最初から心は決まっているのでしょう・・・分ってはいましたけれど・・・・貴方は・・・。」「・・・・・ヴィヴィアン様・・・・レプラホーンを・・・・御救いください・・・。私は、構いません・・・。私は、騎士で御座います・・・。」「・・・弱き者、悲しみの者を救う・・・最高、至高の騎士道を、貴方は常に歩んでこられました・・・。そして今御自分の命が危うい時でさえ、そうするとおっしゃるのですね・・・。・・・・・・何という強い眼差し・・・わたくしには、その決意を曲げさせることなど叶いません。わかりました・・・・・。レプラホーンの、時を・・・戻しますわ・・・。」

そう言い終えた瞬間、ヴィヴィアンからまばゆい七色の光が発せられ、トリスタンは現実世界へ戻されました。止まっていた時が動き出します。それと同時に、ティターニアとレプラホーン、(現実に戻った)トリスタンの前に、ヴィヴィアンが現れます。ティターニアとレプラホーンは、時が止められていた間、ヴィヴィアンによってトリスタンとの会話を途中から・・・そう、あの言葉も聞かされています。ですからヴィヴィアンが現れても、驚くことはありませんでした・・・。むしろ、トリスタンが言った言葉を、涙を流して噛み締めています。ティターニアの涙は、もはや穢れの無い美しいものでした。邪な感情などは・・・ありませんでした。ヴィヴィアンは、聞いたことの無い言葉を発し、レプラホーンに魔法をかけました・・・。すると、みるみるうちにレプラホーンの傷はふさがり・・・・刺される前の状態に・・・戻ったのです。ヴィヴィアンの姿も・・少女になってしまいました・・・。

少女の姿になったヴィヴィアン

 トリスタンは穏やかに微笑んでいます。「レプラホーン・・・ティターニア様を、これから永遠に庇護して差し上げてくれ・・・。」レプラホーンは地面を拳で殴りつけながら、「なぜだ!!何故貴公が!!!あっ・・・ああああ!!」ヴィヴィアンは言います。「ここで諦めてはいけません。一刻も早く毒の治療をするのです。毒さえ抜けば傷自体はかすり傷なのですから・・・・。わたくしが残る魔力を振り絞り、時の進みを遅らせる魔法をかけます。トリスタンの物理的な身体に対してですが、この程度ならば、問題ないのですわ。ティターニア姫、そしてレプラホーン、今彼方がたにできることは、嘆くことではありません。何か御分りのはずです。前を向いていきなさい。トリスタンを救いなさい。」これを聞いた瞬間、ティターニアは使い魔の術を使います。「ここはまだブルターニュ、ブルターニュ屈指の医者を、アグリアス城に使い魔を出して事情を説明し、要請しますわ!!」レプラホーンは「私はトリスタンをここから一番近い街、カルニエールに連れて行きます!!医者はそこにお呼びください、ティターニア様!スレイプニルよ、私に力を貸してくれ・・・。」と言います。スレイプニルは高く鳴き声をあげ応えました。「皆・・・・私のために、ありがとう・・・。」「貴方にはありがとうなどとは言わせませんわ!!必ずお救いしますわ!!・・・・貴方の笑顔を皆、待っているのです・・・・」ティターニアはトリスタンをローブで被いました・・・。ヴィヴィアンは、「わたくしは魔法の効き目を解くまで地上に留まらねばなりません。わたくしがどういった存在なのか、他の誰にも漏らさないようにしていただきたいのです・・・。」と言います。トリスタン、ティターニア、レプラホーンの3人は固く誓いをしました。そして、トリスタンを救うため、動き出しました。