200名山 No.79 カムイエクウチカウシ山(1979m)

              
平成19年8月11日(土)〜13日(月)     
  【1日目】8月11日 曇り
  札内ヒュッテ先ゲート(12:30)→七ノ沢出合(14:15〜30)→中ノ沢
  (15:30〜40)→八ノ沢出合(17:00)
  【2日目】8月12日 晴れ
  八ノ沢出合(5:10)→1000m三股(8:00)→八ノ沢カール(10:40〜55)→
  カムイエクウチカウシ山(12:55〜13:20)→八ノ沢カール(14:30〜40)→
  八ノ沢出合(18:35)
  【3日目】8月13日 晴れ
  八ノ沢出合(6:35)→中ノ沢(7:45〜55)→七ノ沢出合(9:25〜40)→
  札内ヒュッテ先ゲート(11:40)

八ノ沢出合
 【1日目】今日からやっと北海道地方も夏らしい天気になると言うことだったが、夜中にあまりにも激しく雨が降ったので、増水のことを考えると二の足を踏んでいた。車の中はだんだん暑くなってきたので、とりあえず登山口まで行ってみることにした。途中の山岳博物館に寄って情報を仕入れることにした。「明日には水が少なくなっていると思います」という無難な答え。人の命にも関わってくることだから安易な返事はできないということが推測された。福岡大生の3人の命を奪った熊の剥製が飾ってあった。意外にも小さな熊だと思った。日高山系のジオラマを見ていると2人の登山者らしい人がいた。彼らは今日八ノ沢出合まで行くという。僕も決心して駐車場でリュックサックに必要なものを詰め込み始めた。
 札内ヒュッテでは下山者が休んでいたので様子を聞いてみた。「雨で増水してきたので八ノ沢出合から引き返してきた。今はかなり水も引いて、一番深いところで太股のあたりだった」ということだった。ヒュッテ先の駐車場に着くとかなりの車が止まっていて、例の2人組の人もいたが、「先に行ってます」と言って先行した。すぐに追いかけたい気持ちもあったが、いつもの例であわてて用意するとろくな事が無いので、マイペースで慎重に準備した。
 林道を半分ほど進んだ所にある鉄筋コンクリートの立派な橋の上で2人に追いついた。Bさんが足のまめの手当をしていた。これ以降3日間行動を共にさせてもらうことにした。七ノ沢出合に着いたが、水は澄んでいて、水かさも多くない。これなら大丈夫だ。さっそく地下足袋に履き替える。BさんとCさんは沢靴にヘルメット、ロープの完全装備、何だかこちらはみすぼらしい。
 いよいよ徒渉開始。最初はズボンをまくり上げていたが、途中からそのままずんずん水の中を進んで行った。時々2人は地図やGPSで現在地点を確認している。本格的だ。赤いテープを目印に、川岸を歩いたり中州の踏み跡をたどったりすると、2時間余りで今日のテント場の八ノ沢出合に着いた。すでに2張り張られていた。僕らは並んで張ったが、何と同じ会社の同じ色のテント。これにはちょっと笑ってしまった。久しぶりのテント泊だったが意外に心地よく、沢の音を子守歌によく眠ることができた。
 
 【2日目】4時起床。僕はパンだけの軽さ重視の朝食。二人はお湯を沸かし温かい朝食。まだ濡れているズボンと地下足袋を履き目の前の川から徒渉を開始する。やがて正面にカムエク山が見えてくるが、カールから上部はガスがかかっている。頂上部はなかなか見せ

三股
てくれないらしい。Bさんは写真を撮るために何度も立ち止まる。特に熱心に水しぶきを上げた激流を撮っている。そうするうちにどんどんガスが流れて、頂上まで見えるようになってきた。我々の期待は嫌が上でも高まる。
 三股の少し下にはまだ雪渓が残っている。下を流れる川に削られて、トンネル状になっている。そこで休んでいると親子らしい2人連れが登ってきて、道を尋ねてきた。七ノ沢出合からの日帰りだという。ちょっと無謀ではないかと思った。
 三股は3つの滝が流れ込んでいるところであるが、そこからカールまでがこの行程で一番きつく、危険でもあった。真ん中の滝の左岸の巻き道を登っていくのだが、しぶきを浴びながら小さな滝を直接登らなければならないところもあった。
 カールに出ると沢の音も聞こえず静かな別世界であった。ここで登山靴にはき替える。地下足袋で足の裏が痛くなっていたので、ほっとした。カールの真ん中あたりの大きな石に福岡大生の金色のレリーフが張り付けられていた。小さな小川がさらさらと流れている。
 カールの上部から稜線にかけては高山植物のオンパレード。これだけの量の花々はめったに見られない。頂上は見えているのだがなかなか近づかない。おまけに「あんな所を登るのか」と気を萎えさせるような急登も見える。それでも一歩ずつ足を運べば念願のカムイエクウチカウシ山の頂上にたどり着いた。思わず3人で握手し合う。足下には八ノ沢のカール、右手の稜線の先にはピラミッド峰、そしてそれらを取り囲む360度の大展望。言うことなしの風景だ。
 長めの休憩や写真撮影は多かったにしろ、決して歩くスピードは遅くはなかったのに頂上到着は予想していたより遅くなり帰りの時間が心配になってきたので早めの下山。それでもカールあたりではまだ余裕があり、小川の冷たい水を飲んで「ああ生き返った」などと言っていたのだが、Cさんが「ビバークのことも考えなければいけない」などと言うのでだんだん心配になってきた。何しろ僕はツェルトなど持ってきていなかったし、山の夜は暗いので陽が落ちたら万事休すである。
 登る途中で会った登山客から、休んでいる時女性の背後から熊が現れ、それを男性が追い払ったということを聞いていたので、2人は盛んに熊笛を吹いてくれている。地下足袋では石のごつごつ感が直接足に伝わってくるからか、だんだん足の裏が痛くなり2人から遅れ気味になる。三股を過ぎて、時間が迫ってきていることが現実となってきた。2人の足も加速度を増してきたようだが、僕も「足が痛い」などと言っていられないのでしっかりついていった。それでもBさんは「ここは間違いやすいからテープを結んでおこう」などとテープを取り出している。山男の優等生だ。ほんの数秒しか違わないのだろうけれど、僕は心の中で「早く行こうよ」と叫んでいた。
 だんだん薄暗くなり始めた頃、Bさんが赤いテープの所で立ち止まり「着いたぞ」と叫んだときは心底ほっとした。明るいうちにテント場に戻るぎりぎりのタイミングだった。これも的確なルートハンティングで僕を導いてくれたBさんやCさんのおかげである。本当に感謝の気持ちで一杯だ。

 【3日目】今日はもう戻るだけである。2人は徒渉を楽しんでいるかのように水の中をざぶざぶと歩いている。僕の方はと言うと、足の裏の痛みが増してきてとても楽しむだけの余裕はなく、とても長く感じた。七ノ沢出合で登山靴にはき替えてようやく安心した。沢では余り感じなかったのに、林道を歩き出すと背中の重さが肩に食い込む。後でCさんのホームページの写真を見るとBさんは林道に長々と横たわり、僕は座って深く首をうなだれている。「どっと疲れている感じやね。何でこんな思いをして山に登るの」とはそれを見た妻の弁である。
 駐車場で2人と別れ、なつかしい「道の駅なかさつない」で昼食を食べる。本州では猛暑が続いているというのが嘘のような北海道の天気であったが、今日は北海道も猛暑の仲間入りだ。天馬街道を通り、再び「蔵三」で温泉につかってさっぱりしたところで苫小牧に向かった。夜のフェリーに乗る予定なので結果的には無駄のないスケジュールになったが、これも天気のおかげで、もし雨で増水でもしていたら事情はだいぶ違っていたことだろう。