前日、国見岳から下山してきた人に「大船山だけなら男池から登った方がいいよ」と言われていたので、その登山口を目指して走る。登山口を見つけるのに活躍したのが、今回初めて持参したスマートフォンである。しかし朝から雨。思い立って竹田市にある難攻不落の名城である岡城を訪れた。名曲「荒城の月」を生んだ所としても有名だ。
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坊ガツルと九重連山 |
男池の駐車場で夜中に目を覚ますと満天の星。星を見るのは久しぶりだ。5時ごろ早くも車が入ってきたので、僕もあわてて用意をする。コンクリートの遊歩道から登山道に入る。歩きやすい道から岩のゴロゴロした道に変わっていくと牧場の入り口がある。木の生い茂った山の中が牧場とは腑に落ちなかった。かくし水はその左手にあるのだが、行くときは全く気付かなかった。
少しずつ高度を上げて行くとソババッケという謎めいた名前の窪地に着く。あとで 調べたところでは、ソババッケという変な名前は蕎麦から化けた妖怪であるらしい。そこからは一段と傾斜がきつくなり、苔むした岩や登山道に張り出した木の根なども現れる。頭上に新緑が無くなると視界が一気に開けて大戸越に着く。
右手に全山ミヤマキリシマで埋め尽くされることで有名な平治岳が迫っている。しかし失望したことにはここで見るはずのミヤマキリシマは一つもなく、虫に食われて枝だけが残る無残な白い姿であった。気を取り直して、平治岳とは反対側の登山道に入る。低木が迫った細い道や沢の中のがれた道をたどって行くと、なんとミヤマキリシマが現れ出した。終わりかけではあったが、ほぼ満開の株もある。 野球場のような米窪の観覧席にはまるで観客のようにミヤマキリシマが咲き誇っていた。「これが見られただけでも来た甲斐があった」と思わずつぶやく。
目指す大船山は、北大船山、段原と超えて行かなければならず、はるかかなたに見えた。しかし、実際歩いてみると思ったより早く頂上に達することができた。頂上付近にもミヤマキリシマの群落があった。眼下には高層湿原である坊ガツル、その奥に九州最高地にある法華院温泉の建物が見える。そしてその背景をなす九重の連山。米窪の上には小さな御池があり、その向こうの雲の上から由布岳と鶴見岳が顔をのぞかせていた。まさに至福の時であった。
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