300名山No.10 三俣蓮華岳(2842m)

                平成15年7月25日(金) 時々雨
 
   太郎平小屋(5:00) → 北ノ俣岳・朝食(7:00〜30) → 黒部五郎岳(11:00〜20) → 
   黒部五郎小屋・昼食(13:15〜50) → 分岐(15:10) → 三俣蓮華岳(15:50〜16:00) → 
   三俣山荘(16:45)    
 朝から雨。雨具の上下を着けて出発する。緩やかな木道が続き、天気がよければ快適なプロムナードであろう。ハクサンイチゲが多くなり,右も左も白一面である。チングルマも負けじと咲き、白い霧の中にほのかに浮かんでいる。
 北ノ俣岳を過ぎたあたりで朝食にする。雨の中の食事はちょっと情けなかったが、温かいコーヒーがはらわたに染みた。こんな日は温かい飲み物が心まで温かくしてくれる。
 11時頃、いよいよ黒部五郎岳の最後の急登にかかると、一瞬「サーッ」とガスが晴れて目の前に急峻な山が現れてきた。しかし、ジグザク道を一歩一歩登っているうちに、再び白一面の世界になった。黒部五郎岳の肩から右に折れると、あっけなく頂上に到着した。頂上には先客が一人いただけだった。あたりは相変わらず乳白色のガスに覆われていて、今ひとつ頂上に着いた実感がなかった。
 再び肩まで戻り,カールの下の雪渓まで一気に降る。折りしも雨が激しくなり、道を歩いているのか川を歩いているのかわからなくなる。それでも、下から見上げたカールの大きさに圧倒された。まだ雪渓の残るカールはスケールの点から言っても天下一品だ。
 雨の進軍に情けない思いが先立ち、黒部五郎小屋の到着時間によっては先に進めないのではないかと不安になってきた。しかし、黒部五郎小屋には思っていたより早く着き、自炊場で温かいみそ汁をすすり、太郎小屋で作ってもらったおにぎりをほおばれば元気も回復し、予定通り三俣山荘に向けて出発することにした。
 しかし、三俣蓮華岳に向かう道がいきなりの急登でいささか閉口し、実に長く感じた。ようやく三俣蓮華岳と巻き道との分岐点に着いたが、T夫妻は迷わず巻き道へ行くという。体力的にはかなり消耗していたが、僕は単なる意地で三俣蓮華岳の頂上を目指す。ただ真っ白な頂上では何の意味もないとわかってはいたが、ここまで来て頂上を踏まないことの無念さを思うと、前進するしかなかった。
 ところが、いきなり入口を間違えて、すぐに絶壁に行く手を阻まれてしまう。もう一度始めに戻ったらちゃんとした道がついていた。人間、はやる気持ちがあると判断力がにぶってしまう。10分のロスである。
 頂上まで誰一人にも会わず、頂上にも誰もいなかった。せめてもと思い、セルフタイマーで記念写真を撮っていると、何と奇跡が起こった。みるみるガスが切れてきて、対岸の水晶岳が堂々と姿を現しだしたのだ。やがて、左手に黒部五郎岳のカールも顔を出してきた。ただただ興奮してビデオや写真を撮りまくった。頂上の縁に立って下を見下ろすと,何と今日の宿である三俣山荘の赤い屋根まで見える。大きく手を振ってみるが、恐らくだれも気がついてはくれまい。
 三俣蓮華岳から双六岳方面の分岐点まではあっという間に着いたが、小屋までが意外と遠くかなりバテていた。夕食後「槍が見えてきた」と誰かが叫んだので外に出てみると、目の前に槍ヶ岳が姿を現しだした。ガスはそれこそ手品のように消えていき、眼前に槍と穂高の峰々、振り返れば左手に鷲羽岳、ワリモ岳、水晶岳の連なり、右手には三俣蓮華岳と、まわりの全貌が明らかになっていく。この小屋は何という立地条件に恵まれていることだろう。「これだけ見られたら、もう明日雨が降っても仕方ないね。」と言い合ったものである。

 日本300名山