長い梅雨の合間にたった一日だけ晴れた日があった。それが四阿山に登った日である。真に幸運であった。
菅平牧場から歩き始める。 のんびりと草を食べている牛。その向こうに目的の四阿山と根子岳が二つのふくらみを見せている。出発が遅かったので、「今から頂上に登るんですか。」と、ピクニックをしていた人たちに半ばあきれられてしまった。
なだらかな牧場を少し登って行くと、なんとそこからレンゲツツジのオンパレードであった。あざやかな朱色のレンゲツツジが今を盛りと咲き誇っていた。上から見ると、緑のじゅうたんに赤い模様がまるで朱の墨を落としたように見えた。全く予想もしていなかっただけにこれもまた幸運であった。
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レンゲツツジと管平高原 根子岳の中腹から見た四阿山
小四阿山で昼食。そこは中腹あたりの展望のよい岩場であった。足元には菅平高原が広がっている。スキー場がちょうどトラ刈りのように緑の地肌を見せている。四阿山の頂上は上部の林の影になって定かではない。根子岳は大きな壁となって左側にでんとそびえている。
一旦下って登り返し、最後の急登を終えると傾斜が緩やかになり、やがて右前方にこんもり盛り上がったピークが見えてくる。
頂上には最初に石垣で囲まれた上州祠、その奥に信州祠がある。あまり遠くまでは見えなかったが、周囲の展望も梅雨の晴れ間にしては上出来であった。頂上から見る草原状の根子岳は一段と魅力のある山に見えた。
帰りは根子岳を経由して下ることにした。四阿山の下りは林の中で視界がきかず、しかも急坂でぬかるんでいるので、あまり楽しいものではなかった。しかし、鞍部まで降りると広いササ原で、何とも言えない開放感があった。ササに混じって様々な高山植物が咲き乱れていた。振り返れば、さっきまでわれわれが立っていた四阿山の頂上が風格のある形を見せていた。
根子岳からは、眼下に菅平高原を見ながらの気持ちの良い道である。やがて白樺の林の中に入って行く。すると又してもレンゲツツジの群落が待っていた。このあざやかな朱を忘れないで欲しい、と念を押しているかのようであった。
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