午後2時30分に福井を出て、金沢、直江津、新潟と3回乗り換えて酒田に着いたのは夜の10時を過ぎていた。長い長い汽車の旅であった。
翌日ホテルの窓から見た鳥海山はすそ野の広い均整の取れた山であった。レンタカーを借りる手筈になっていたが、店が開いたのは8時だったので、鉾立に着いたのは9時30分近くで、駐車場はすでにいっぱいだった。
展望台まで続くコンクリートの遊歩道を過ぎると、石畳の道に変わる。自然を守るためではあるが、金と労力を かけてできた道であることがわかる。
紅葉は想像していた以上にすばらしい。左手の谷を見下ろすと、笹の緑の中に島のように鮮やかな赤と黄色の島が浮かんでいた。そして、その先は日本海である。
中間地点の御浜小屋は眼下に鳥海湖、眼前に鳥海山、後に日本海というすばらしいロケーションにある。近くで見る鳥海山は岩のゴツゴツした複雑なスカイラインを見せている。三脚を据えて熱心にシャッターを押している人もいる。
七五三掛(しめがけ)で昼食。広くて深い谷が紅葉のじゅうたんとなって続いている。頂上は目の前である。そこを過ぎると道は二手に分かれているが、われわれは千蛇谷コースを取る。入り口の岩場が崩壊していて少し苦労するが、最短距離である。今時珍しい雪渓の上を歩けば、後は緩やかな登りである。右手の外輪山の上に人が点となって見える。七五三掛から大物忌神社まで1から10の番号札が立ててあるのがうれしい。
大物忌神社からは岩の山である。ペンキで矢印はつけてあるが、岩が浮いている個所があり危険である。岩木山の頂上部に似ている。やっと頂上に着いたと思ったところに大きな岩があり、その間を一旦下るとようやく頂上に着く。しかし外輪山にはばまれて、見晴らしは余りよくない。
風が強く、寒くなってきたので早々に引きあげる。太陽との競争だった。暗くなるにつれて街の明かりがキラキラ輝き出した。急に人恋しくなる。
賽ノ河原を過ぎた所で、とうとう懐中電灯をとりだし、足元を照らしながら歩く。静かな山にわれわれの足音だけが響いていた。僕は調子っぱずれの歌を歌いながら、長い歩行と心細さに耐えていた。
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