No.60           聖 岳(3013m)

            平成12年8月25日(金)  晴れ 

  @易老渡(3:40) → 便ヶ島(4:10〜5:00) → 西沢渡(5:55)  
   → 中間点(7:25〜30) → 聖平(10:10〜35) → 小聖岳(11:20) 
   → 聖岳(12:25〜55) → 水場(13:30〜40) → 小聖岳(2:00)  
   → 聖平 (14:50〜55)
 → 聖平小屋(15:20)

 12時間の歩行を覚悟していたので、3時ごろ起床して真っ暗な中を懐中電灯一つで歩き始める。便ヶ島までは林道だったので特に問題は無かったが、それからいきなり山道に入り三叉路の所で道を間違えてしまった。だんだん踏み跡が無くなり、おまけに懐中電灯の電池まで心もとなくなってしまった。やけになって、真っ暗ななかに座り星を見ながらパンをかじっていた。
 結局1時間近く無駄にしたことになり、今度はベテランらしい人の後について行かせてもらった。しかし、その人のペースが遅く、入れ込んでいた僕はいらいらしてしまい、先に行かせてもらった。しかし道を間違えること2回、本当に情けない。
 西沢渡に出ると件の彼は渡れるところがないか一生懸命探している。増水時は使ってもよいと本で読んでいたので、僕は荷物用のケーブルに乗って対岸に渡った。彼も僕に続くものと思い、先に行くと「おーい」と叫ぶ声。川の真ん中で身動きが取れないでいる。今度は僕が助ける番だ(これで気持ちはイーブンだ)。しかし、彼にはすぐ追い越され、2度と追い越すことは無かった。「ゆっくり着実が一番」である。 
 西沢渡から聖平までは急登の連続。視界の利かない林の中をひたすら足元を見ながら登る。ここが一番つらく、体力を消耗した所だ。
 ほうほうの体で聖平(薊畑)に着くと、聖岳の頂上部が見えてきた。正面には堂々とした上河内岳がそびえている。残念ながら、光岳の上部にはガスがかかってはっきりしない。                                     
 荷物を置いて聖岳を目指す。途中はトリカブトの大群落。これだけたくさんのトリカブトを見たのは初めてだった。トリカブトの青海原である。次にある場所に来ると、マルバタケブキと思われる黄色の大洪水である。
 小聖岳に着くと、目の前に堂々とした聖岳が見えてきた。実に立派な山容である。すべりやすい砂礫の斜面のジグザグ道を一歩一歩踏みしめて行くと、一気に頂上が近づいてきた。
 頂上には三人の先客がいたが、静かなものである。まず目に飛び込んできたのは、すぐ隣の赤石岳である。昨年登ったときは濃いガスの中で何が何だかわからなかったが、今ようやくその全貌を見せてくれている。反対側に目を移すと、左下に明日登るであろう光岳への縦走路が見える。とうとう南アルプスの奥深い所に来てしまったんだという感慨に浸りながら、360度の大展望を楽しんでいた。
 帰り、雷鳥に会う。こんなに近くで見たのは久しぶりだ。白と茶色のまだらのふくよかな羽毛をまとっていた。雷鳥まで登頂を祝福してくれているようだった。そして、行きとは違って周りが見られる余裕がでると、実にたくさんの高山植物が咲いていた。 

No.61       光 岳(2591m)   

200名山 No.3 上河内岳(2803m)   
300名山 No.4 茶臼岳(2604m)     

平成12年8月26日(土)〜27日(日)  快晴 

  A聖平小屋(4:40) → 中岳(6:30) → 上河内岳(7:15〜30)  
   → お花畑(8:10) → 喜望峰(仁田岳分岐)(10:05〜15) → 
   易老岳(昼食11:45〜12:20) → 三吉平(13:20〜30) → 
   水場(14:30〜35) → 県営光小屋(14:55〜15:10)  → 光岳
   (15:30)
 → 光石(15:45〜50) → 光岳(16:05)  
  県営光小屋(16:25)
  B県営光小屋(4:50)
  水場(朝食5:00〜20) → 三吉平
   (5:55〜6:00) → 易老岳(7:00〜05)
  面平(8:55) 
   易老渡(10:05)

 昨日の反省を踏まえて、今日は山小屋の前で温かいコーヒーを飲みながら夜が明けるのを待っていた。そして、朝日で山が焼け始めると歩き出した。シラビソの林の間から、昨日登った聖岳が時々顔を出す。
 中岳に出ると、もうさえぎる物は無かった。聖の右に赤石、その右に昨日は見えなかった悪沢岳も顔をのぞかせている。富士山も朝日に浮かび上がっている。視界良好、快晴。いう事なしである。上河内岳に行く途中も、さまざまな高山植物が青空を背景に咲き乱れていた。
 上河内岳はこの地域随一の展望台だと思う。行く手にはなだらかな山容の縦走路が続き、その先に堂々とした光岳が神秘のベールを脱いでいる。正面に目をやると中央アルプスの山並み、反対側には、すそ野を薄い雲でおおわれた貫禄の富士山。そして、足元には畑薙ダムが奥深い山の中で光っていた。いつまでもそこにいたい気持ちを押さえ、茶臼山に向かって歩き始めた。
 途中であった人は千葉県の人で、この後明日の易老岳まで同行することとなる。百名山は97とのことで、いろんな山でのエピソードを聞かせてくれた。そのなかで興味があったのは、「山と私とどちらが大事なの」と奥さんに言われ離婚した人の話である。悲喜こもごもの百名山ではある。
 茶臼岳は聖岳と光岳の中間あたりであろうか。聖岳の横には悪沢岳の方が大きな顔を出すようになった。光岳は下部をイザルヶ岳に隠されてきた。
 3時までに小屋に入らないと夕食を食べられないことを聞いていたので、自然と足が早くなる。小屋の手前の涌き水は、汗ばんだ体と乾いた喉に本当にありがたかった。小屋で受付を済ますと、荷物を置いて頂上を目指す。あっという間に着いた頂上は思ったより狭く、周りの木にさえぎられて視界も利かなかった。しかし、南アルプスの最南端にようやくたどり着いたんだという感激の思いでいっぱいだった。
 少し奥に進むと展望台があり、右手下に光石が見えた。思いきってそこまで行って見る事にした。遠くから見るとこの石が白く光っていたので光岳という名前がついたらしい。その石は想像していたよりずっと大きかった。
急斜面にあるので、反対側から見るともっと大きく見えるに違いない。
 この小屋で夕食にありつけるのは@3時までに着く、A50歳以上、Bグループはダメという珍しい条件があるので、夕食を食べたのは20人足らずであり、その分和気あいあいと楽しい食事だった。その中に今日で百名山完登という人がいて、みんなでお祝いをした。98座目という84歳の夫婦も立派なものである。外は今日も満点の星であった。