笠ケ岳は笠をのせたような独特な山容から、遠くからでも目立つ山である。立山や槍ヶ岳からもよく判別できて、いつかはあの頂上に立ちたいものだと思い続けていたのが、意外と早く実現する事ができた
笠新道は元の道が洪水で寸断されたために新しく作られた道であるが、十分踏み込まれていないためか、木の根が張っていて歩きにくい。しかし、この日は快晴。一時間も歩くと、背後に雄大な穂高連峰と槍ヶ岳が顔を出し始めた。こんなに近くから見るのは初めてである。
樹林帯を抜けると太陽がまともに背中を襲ってくる。汗が滴り落ち、地面に吸い込まれていく。皆無言になり歩くのにあきた頃、ようやく杓子平に着いた。杓子平のお花畑は美しいらしいが、この季節ではちょっと遅過ぎる。
カール状に切り落とされた断崖のジグザグ道をあえぎながら登っていくと笠新道の分岐に出る。そこからは口笛でも吹きたくなるように快適な尾根歩きである。ふっくらとした笠ケ岳が手招きしているようである。 山荘で宿泊の手続きを済ませると、一目散に頂上を目指した。なだらかに見えた頂上部は岩でゴロゴロしている。ピラミッドが岩でギザギザしているのと同じである。
頂上からの景色は想像をはるかに越えていた。北から東にかけて黒部五郎岳、薬師岳、剣岳、立山、水晶岳、鷲羽岳、野口五郎岳などを確認することができた。東には穂高連峰と槍ヶ岳、そして焼岳が一段と近くに見え、南に向かって甲斐駒ケ岳や仙丈などの南アルプスの山々が見渡せた。そして、甲斐駒の左奥には何と富士山までその堂々たる姿を見せていた。
こんなにたくさんの山を一度に見たのは初めてであった。やがて穂高連峰と槍ヶ岳が真っ赤に燃えだした。それはこの世のものとは思えないくらい幻想的な光景であった。
穂高に登る朝日 |
乗鞍岳と御嶽山 |
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