北岳山荘
                       
                            10月16日(金)晴れ 17日(土)曇り 
  
 @広河原(8:20)→御池分岐(8:45〜50)→大樺沢二俣(10:35〜50)→
 上部二俣(12:20)→八本歯のコル(13:30〜40)→北岳山頂分岐(14:20)
 →北岳山荘(15:05)
 
A北岳山荘(6:10)→北岳山頂分岐(7:00)→八本歯のコル(7:25)→上部二俣
 (8:00)→大樺沢二俣(8:35〜40)→御池分岐(9:45〜50)→広河原(10:10)

 日本二百名山を完登すべく農鳥岳を目指す。前日八ヶ岳PAで眠り、7時40分の乗り合いタクシーで広河原へ。前回は自家用車で広河原までは入れたが、今は一般車乗り入れ禁止である。10年以上前のことだが、北岳と間ノ岳に登り、帰りに八王子から埼玉の息子の下宿に泊まったことを鮮明に覚えている。
 秋晴れの上天気である。スタート地点のつり橋の手前から北岳が遠く真正面に見える。歩きだすと、沢にかけられた木道には霜がついており滑りやすく危険である。大樺沢はこの時期にしては水量が多く、大きな音を立てて流れている。このあたりから大樺沢二俣までの紅葉も見ごろで、朝日に赤や黄色が輝いている。前方に北岳の雄姿を眺めながらのぜいたくな登山である。気温も上がり、長袖だと暑いくらいである。
 大樺沢二俣までは快適なペースで進んでいく。バイオトイレは作業員が使用禁止にしている。これからは水が凍るので使用できないのだろう。北岳はだんだん横になり、バットレスの岩壁も荒々しい。まだ雪渓も残っているが、コンクリートのような色になっている。
 北岳の頂上は2度踏んでいるので、まっすぐ八本歯のコルを目指す。上部二俣あたりから傾斜が急になり、岩もごろごろ現れてペースもダウンしてくる。八本歯のコルに近づくと階段が連続してくる。ここがコース中の一番苦しいところだ。コルに出ると涼しい風が通り抜けほっとする。甲斐駒ヶ岳の頭がちょこんと見えている。反対側には北岳山荘の赤い屋根と大きな間ノ岳と縦走路が見える。
 空気が薄くなってきたせいか、呼吸が苦しい。急斜面に作られた結構危険な個所を何箇所か通過して稜線にでると、急に風が冷たく強くなってきた。さっそくジャンパーを羽織る。岩場で転びそうになり、思いっきりステッキに体重をかけたらぽきんと折れてしまった。長年使いなれたものだったのでちょっと残念だった。
 今日の宿泊者は4人。まさかこんなに少ないとは思わなかった。そこで山小屋の人にとんでもないことを聞いてしまった。明日泊る予定だった大門沢小屋は今日で終了とのことだった。予定が全く狂ってしまった。この時期の三千メートル級の山は寒く、今日間ノ岳から戻ってきた人のペットボトルの水は半分凍ってしまっていたそうだ。明日は午後から雨の予定で雨は雪に変わり、すぐ十センチくらいになるらしい。
 さんざん迷った末、今回は農鳥岳はあきらめることにした。その理由は次の通りだ。@大門沢小屋が営業終了していること。Aストックを折ってしまったこと。B明日の午後は雪になる可能性があり、しかもアイゼンをもっていないこと。C稜線の風が強く低体温症になる可能性があること。C単独行であること。
 寝る前、農鳥岳山小屋の部屋から富士山がきれいに見えていた。

A快適に目を覚まし、窓から富士山を見る。稜線が昨日よりだいぶ下がっている。雲海の上に青いシルエットが美しい。
 まだ少しだけ未練があったが、稜線の風の冷たさにあきらめがついた。せめて北岳に登って帰ろうと決めたが、分岐から十メートルほど進んだ所で体が持っていかれそうなほど強い風に怖じけずいて、結局来た道を戻ることにした。山は逃げていかない、来年の夏に来ようと自分を納得させた。あと一つ、の楽しみは来年まで残しておこう。