海外トレッキング日記  モンブラン周遊の旅 2013年8月

8月5日(月) 
 5時15分前にS先生が迎えに来てくれた。早く着き過ぎて家の前で少し待っていてくれたようだ。申し訳ない。Yさんとは1年ぶりの顔合わせ。養老SAで朝食。順調に行って中部国際空港には8時ごろ着いてしまう。そこで浜松のSさんと合流。
 
機内では映画を4本も見たので退屈はしなかった。ヘルシンキで乗り換え、3時間かけてジュネーブ国際空港に到着。ホテルのシャトルバスで「ホリデ−イン」にチェックインする。
8月6日(火) 

晴れ

 
TMB1日目

  ノートルダム・ド・ゴルジュ(9:10)→橋(9:35〜40)→バルム小屋(11:00〜25)
  →ジュヴェ湖への分岐(12:20〜30)→ボンノムのコル(14:05〜15)→ボンノム小屋
 (15:20)
 出発地点のノートルダム・ド・ゴルジュまでなるべく早く着かないと、今日の予定が消化できない。そこで昨日レセプションでタクシーの交渉をしたが、あまりに高い値段を言うので、空港まで行って待っているタクシーに乗ることにした。6時10分発のシャトルバスで空港に行き、タクシーの運ちゃんと交渉する。行き先はあまりよく知らないようだったが、値段は本で調べて270ユーロと言うのでそれで手を打つことにした。ナビを使ったり、人に聞いたりして何とかノートルダム・ド・ゴルジュに着くことができた。
 歴史を感じさせる礼拝堂の前から出発。広い道だが直登なので結構きつい。次から次へと登山客が登ってきて、追い越されていく。やがて古い石橋に出る。ここに初めて橋が作られたのはローマ時代のことだ。下には急流が滝となって大きな音を立てている。橋を渡ると広々とした草原に出る。珍しくS先生のお腹の具合が悪く、調子が上がらない。
 バルム小屋の前のベンチで昼食。小屋を越えると勾配がきつく、道幅も狭くなる。周りの牧草地では牛がカウベルを響かせ、のどかな音が谷にこだましている。高山植物には遅すぎたかと思ったが、紫、赤、黄色と色とりどりの花がわれわれの目を楽しませてくれた。ジュヴェ湖への分岐には清流が流れており、顔を洗ってさっぱりとした気分になる。大勢の登山客は湖の方へ行くようだ
 S先生の先に行ってくれという勧めに従って、Yさんと先に小屋を目指すことにした。登山道に大きな雪渓が残っており、その上を渡る風が冷たくて、火照った体にはなんとも言えず気持ちが良かった。急登をあえぎながら登っていくと右手に避難小屋が立つボンノムのコルである。冷たい強風が吹き渡っており長居はできなかった。
 コルから右手に大きくトラバースしていく。勝手に「その先を曲がれば小屋が見えてくる」と思っていて、見えないとその度にがっかりして余計に疲れてしまう。気持ちよく流れる沢を渡り少し登れば大きなケルンがあるクロワ・デュ・ボンノムのコルである。その横に立てば眼下にボンノム小屋が見えてきてほっとする。
 部屋は2段ベッド2つの4人部屋。土足厳禁でトイレは水洗、シャワーもついている。日本の山小屋とはずいぶん違う。

8月7日(水)
曇り時々雨

TMB2日目

  ボンノム小屋(7:15)→クロワ・デュ・ボンノムのコル(7:20〜40)→フールのコル
  (8:10)→滝(8:50〜9:00)→グラシエ村(10:15〜20)→モッテ小屋
 (10:55〜11:45)→セイニュのコル(14:10〜15)→エリザベッタ小屋(15:25)
 今日の行程は長いので早く小屋を出たのに、すぐに注文しておいたピクニックランチを忘れたのに気付く。一瞬「誰が取りに戻るのだろう」と考える無言の間があったが、Yさんが犠牲的精神を発揮して取りに行ってくれた。われわれは昨日通った大きなケルンのあるクロワ・デュ・ボンノムのコルで待つことにした。年長者のYさんに感謝である。
 滑りやすい砂地の道を登っていけば、あっという間にフールのコルに着いた。ここがツール・ド・モンブランの最高地点で2665mである。その感激に浸る間もなく、反対側にどんどん下っていく。一転して斜面は緑に覆われ、高山植物も多い。途中に岩の上を流れる滑滝がある。水量は決して多くないが、岩の上を蛇行して流れる様は命ある竜のようである。
 いったん下って又登り返すと言う気の滅入るコースの最鞍部にグラシエ村がある。ちょうどチーズができる行程を客に見せているところだった。グラシエ川を渡り、なだらかな車道を歩いてモッテ小屋を目指す。車道歩きはなぜか長く感じる。雨が降っていたので、食堂にはいらせてもらう。飲み物を注文し、ここで昼食を食べる。ボリュームがあり、みんな少しずつ残してしまう。周りを見回すと昔の農機具やらアイベックスの角などが飾ってある。
 小屋からはいきなりの急登。斜面はだんだんおだやかになるが、ガスで周りが見えなくなる。セイニュのコルはフランスとイタリアの国境だが、風が強く何も見えないのですぐに通過する。今日も登りは苦しそうだったS先生は、下りになると見違えるように早足になり、ついていくのが大変だった。やがて、広々とした河原に出る。そこは氷河で削られたU字谷であることがわかる。車道を進んでいくと、左手上部に小屋が見えてくる。今日の宿エリザベッタ小屋である。しかし、小屋まではあとひと登りしなければならず、疲れた体には随分こたえる。

 8月8日(木)
 曇り一時雨 


TMB3日目

  エリザベッタ小屋(7:20)→登山口(8:20)→サップ小屋(9:20〜30)→
  尾根の先端(9:55〜10:05)→
シェクルイ湖(10:45)→シェクルイのコル(11:35)
 小屋の前から氷河の抱いた山を見上げると、山頂部は昨夜降った雪で白く化粧していた。谷を見下ろすと湿原が広がっている。コンバル湿原だ。完全武装(雨具の上下、スパッツをつけて)で出発する。最初は、湿原の端につけられた砂利道を歩く。見渡す限りの一本道である。湿原には小川が流れ、潅木が生えている。氷河は青く光り、その下に糸を引いたように小さな流れを作っている。さらにその下には典型的なモレーン(氷河による堆石)ができている。まるで人が作ったようにきれいな堤となっている。
 1時間ほど歩いて、前方に橋が見えてくると右手に登山道が現れる。標識がなければ見逃しそうな入り口だ。牛が放牧されている牧場脇を通り、崩れた石の建物を過ぎ、気持ちのよい音を立てている小川の横を歩きどんどん高度を上げていく。途中のサップ小屋で一休み。目の前にモンブラン山群が見えている。傾斜がゆるくなり、まったく木が生えていない緑の草原をトラバースしていくと尾根の先端に出る。絶好の休憩スポットで、大勢の人が休んでいる。正面に氷河をまとった山群、馬蹄形に見えるモレーン、そして深いU字谷、自然が作り出す大パノラマだ。
 尾根の先端を回ると、緑の中に1本の道がかなり先まで続いているのが見える。お花畑の規模が大きく、山の中腹まで黄色い花で埋め尽くされている。僕らと同時にトレッキングを開始した台湾の女性とフランス人男性のカップルとは前になったり後になったりして、すっかり顔なじみになってしまった。彼らはマーモットを発見しては大はしゃぎしている。しばらく進んでいくと小さな湖が現れる。シェクルイ湖だ。しかし想像していたものとははるかに小さいものだった。スキー場を通ってリフト乗り場のあるシェクルイのコルに出る。そこのレストランで昼食。スパゲッティ2人分を4人で分け合って食べたが、それでちょうど良い量だった。
 昼食を食べている間に当たりはガスで真っ白。リフト乗り場を見つけるのさえ困難であった。何とかリフトに乗れたが、今度はケーブルカー(ロープウェイのことをこちらではそう呼ぶらしい)の乗り場を見つけるのに苦労する。ケーブルカーの乗り場からはガスも切れ、クールマイユールの街が俯瞰できた。そのケーブルカーが馬鹿でかく、乗っているのはたった6人なので思わず笑ってしまう。
 クールマイユールという町を知ったのは今回が初めて。しかしイタリアでは有名な避暑地らしく、通りは観光客でにぎわっていた。

8月9日(金) 
晴れ 

TMB4日目

  アヌーバ(12:35)→エレナ小屋(14:40)
 本当はロープウェイを乗り継いでエギューユ・デュ・ミディ展望台(3842m)まで行くつもりだったのだが、前日のホテルの情報で工事中で行けない事がわかっていた。それで、途中のトリノ小屋まで行くことにしてターミナルでバスを待っていた。てっきりバスの中で乗車券を買えると思っていたのだが、運転手は売り場で切符を買ってこいと言う。切符売り場では列ができていたので大いにあせったが、バスは待っていてくれて何とか乗ることにした。
 重いザックはロープウェイの駅に預け、身軽になってロープウェイに乗り込む。途中駅で乗り換えたが、そこでは大規模な工事をやっていた。工事用の大きな車が動いていたが、「どうやってあそこまであげたのだろうか」と議論になった。頂上近くになると傾斜は一気にきつくなる。外に出ると、そこは3000メートルを越す冬山の世界だった。
 早速展望台に出ると、何とモンブランがガスの間から顔を出していた。今まで天気が悪くて拝めなかったモンブランとの初対面である。少しの間感動に浸って、40メートル上にある小屋まで雪混じりの道を登っていった。現在の最高地点(3375m)である。一休みして今度は鉄の階段でロープウェイ乗り場がある小屋に戻ってきたが、その階段の長いこと。登ってくる人は手すりに持たれて息を弾ませ、苦しそうだった。
 アヌーバまで再びバスに乗り、たった1軒そこにあるレストランの庭で昼食。天気はいいし、雰囲気も最高であった。
 広い砂利道を歩き始める。途中から砂利道と山腹を歩く道に分かれて、どちらもエレナ小屋へ行けるそうだが、われわれは右手の緑の草原を登っていった。すぐに滝や美しいお花畑が現れる。途中のぬかるみや牛の糞には閉口したが、心地よい音を立てる小川と次々と現れる花々に見とれている間に石造りのエレナ小屋に着いてしまった。
 これまでは小部屋であったが、今日はとてつもなく広い大部屋であった。ほかの人と一緒に寝るのは初めてだったので少し心配したが、みんなことのほか行儀がいい。9時を過ぎたら話し声ひとつ聞こえず、いびきをかく声さえしなかった。料理もスパゲッティに肉とどれもおいしく、Yさんなど「あの小屋の食事はおいしかった」と後々まで言っていたものである。

8月10日(土) 
晴れ 

TMB5日目
  エレナ小屋(7:40)→フェレのコル(8:50〜9:05)→ラ・ピューレ小屋
  (10:10〜20)→フェレ(11:20)→
ラ・フル(12:00)
 エレナ小屋の正面にある山群が朝日を浴びて赤く燃えている。今日も快晴だ。ただ、風だけはめっぽう強い。小屋から急登が続くが、風に吹かれる可憐な高山植物に心が癒される。3ヶ国をまたぐと言うモン・ドラン、そこから流れ出す氷河が目の前に迫っている。登ってきた谷は典型的なU字谷を作っている。峠のスイス側を見ればグラン・コンバンの雄大な姿が逆光に輝いている。
 反対側は一転して風も無く穏やかである。牧場には牛がのんびりと草を食み、カウベルが谷に響いている。突然自転車で登ってくる人がいる。かなりの急坂だから苦しそうだ。それにしてもいろいろな登り方があるものだ。ラ・ピューレ小屋では大勢の人がコーヒーなどを飲んでのんびりしている。コースでは飲み物やちょっとした食べ物を出す小屋を見かける。たいていは牧場と兼務しているようだ。
 谷の向こうに歩いている人がいる。他にもトレッキングコースがいろいろあるようだ。黒い物体が点々として動いているが、よく見ると牛の大移動である。行儀良く一列に並んで進んでいる。これだけの数のカウベルはまた迫力がある。少しショートカットをして舗装された道路に出る。少し歩くと両側にきれいな家が並んでいる。フェレの村である。窓にはきれいな花が飾ってある。よろい戸が鮮やかな赤に塗られている家もある。本当はそこからバスに乗る予定であったが、たっぷり時間もあることだし、次のラ・フリの町まで歩くことにした。
 バス停でエレナ小屋で作ってもらった昼食を食べ、バスで電車の駅があるオルズィエールに行き、再び別のバスに乗り換えて、ぐんぐん高度を上げシャンペクスの最初の停留場で降りる。ホテルは二つの谷を見渡せる抜群の位置にあった。
 しばらく休んで町を散策する。すぐにシャンペスク湖に出る。何そうものボートが湖面をにぎわせていた。ホテルとレストランが多く、避暑地となっているようだ。どのレストランも夕食は7時からしかやっていなかったので、いったんホテルに戻り、ホテルのレストランで食べる事にした。ちょっと贅沢なフルコースである。客はなぜか年寄りの人が多かった。食事を楽しんでいると、二人の中国の若い女性が、明日予約してあるタクシーに相乗りさせて欲しいと言ってきた。フロントで聞いてきたらしい。お金は払うと言うので断る理由はなかった。やがて、食堂の窓からグラン・コンバンが赤く燃えているのが見えてきた。

8月11日(日)
晴れ 


TMB6日目


  ラ・プーティ(8:25)→バルムのコル(10:45〜11:25)→バルム(11:40)
 朝食を30分早めてもらい、タクシーは7時半に予約した。来た道から反対側に下って行き、トリアンの町から又登り返した。いずれも厳しいジグザグ道が続くので、油断をすると車酔いしそうである。運転手は慣れているらしく、快調に飛ばしている。歩くべき所をタクシーで省略するのは気が引けるが、日程が決まっているので仕方が無い。
 登山口のラ・プーティではすでに幾つかのグループが歩き始めている。最初は深い樹林帯の中を歩く。今までは木の生えていない所を歩いてきたので、返って新鮮に感じる。ジグザグにつけられた道をゆっくりと登っていくと、知らぬ間に森林限界を超えていた。そして早くも峠に小さな小屋が見えてきた。バルム小屋である。視界が開けると同時に、これまでと同様にさまざまな花も現れてきた。
 小屋の横から早くもモンブランが顔を出している。バルムのコルに着くと、息を呑むような大パノラマが待っていた。左手にグランド・ジョラスや主賓のモンブラン、ヴェルト針峰から赤い針峰まで雲ひとつない青空の下に輝いていた。「どうせならモンブランを見ながら」とちょっと早かったが昼食とした。贅沢なひと時である。中国の二人組みはスマートフォンのナビを使って下山道を調べていた。あんな使い方もあるんだと感心させられた。彼女らとはここでお別れである
 15分ほど歩いてリフト乗り場に着き、ここでツール・ド・モンブラン(TMB)のトレッキングは無事終了となる。リフト、ゴンドラ、バスを乗り継いで1時半ごろシャモニの町に入る。ここは観光客であふれていた。今まで買えなかったお土産を買う。
 
5時のバスで2時間かけて空港へ。空港で夕食を食べて最初に泊まったホテルに戻る。預けてあったスーツケースを無事受け取って、荷物の整理をした。
8月12日(月)  朝の食事が中国の団体と重なりすごく混雑した。それにしても家族でヨーロッパを旅行する中国の富裕層(?)の力を見せ付けられた。シャトルバスで三度空港へ。ヘルシンキで乗り換え一路日本へ。

8月13日(火)
 名古屋に着き、飛行機から降りたとたんにねっとりまとわりつく湿気と暑さ。連日35度を越す猛暑だったそうで、涼しかったモンブランがなつかしかった。S先生に送ってもらい2時ごろ無事家に着いた。