表銀座から北穂高岳への縦走
200名山 No.17 燕岳(2763m)   
 200名山 No.18 大天井岳(2922m)
北穂高岳
(3106m)

   
                    
      
              平成16年8月6日(金)〜9日(月)   
      平成16年8月6日(金) 晴れ
  @中房温泉(6:35)→第1ベンチ(7:05)→第2ベンチ(7:30〜35)→富士見ベンチ
   (8:30〜40)→合戦小屋(9:15〜25)→燕山荘(10:20〜25)→燕山頂上
   (10:50〜11:00)→燕山荘・昼食(11:25〜12:00)→大下りの頭
   (12:55〜13:00)→切通岩(14:55)→大天荘(15:30〜35)→大天井岳
   (15:45〜16:00)→大天荘(16:10)    
 本当は北海道に行こうと思い、フェリーの切符も買ってあったが、諸般の事情により北アルプスに変更となった。しかし、念願の大キレット越えは不安でもあり楽しみでもある。例によって道の駅で寝て早朝5時に豊科のタクシー会社に行く。車を会社の駐車場に置き、タクシーで中房温泉へ。僕の車は下山日に上高地まで回送してくれる。なかなかいいシステムだ。
 登り口で腹ごしらえをして、いよいよ長い縦走の出発だ。日本三大急登の1つと言われるだけあってなかなか手強い。しかし、「アルプスの入門コース」と言われるだけあって、30分おきくらいにベンチがあり、ゆっくり休憩すれば誰でも登れそうだ.僕はベンチを1つとばして休憩する事にした。富士見ベンチからは本当に富士山が見えた。
 合戦小屋のスイカは余りにも有名だ。是非食べたいと思ったが、いくらなのか興味があった。「一切れ500円までならいいか」と思ったが、なんと800円もした。一瞬ためらったが、腹は決まっていた。食べて見るとこれがおいしい。こんなに甘いスイカは初めてといってよかった。
 燕山荘から燕山がよく見えたが、燕山に続く尾根の左側は綺麗に晴れているのに右側からドライアイスのようにはガスが湧き上がっていた。 遠目には雪のように見える花崗岩の白い砂を踏んで燕山を目指す。時々コマクサの可憐な姿を目にすることができる。花崗岩の奇妙な岩が林立し、その岩の上に頂上がある。そこからは水晶岳、鷲羽岳、三俣蓮華岳など昨年縦走した山々を眺めることが出来て大感激だったが、槍、穂高は雲の中だった。
 燕山荘で昼食の後、表銀座コースの縦走路である喜作新道に入るそこからは打って変わって人が少なくなる。「大下りの頭」は絶好の展望地。黒部五郎や立山方面も見える。その名の通り、ここから一気に下って登り返す。途中に苦しそうな表情で休憩している女性がいる。登りはかなりきつそうだ。
 目指す大天井岳がだんだん近づいてくる。三角錐の堂々とした山だ。切通岩は小さな梯子で登るが、岩の右手に小林喜作のレリーフがはめこまれている。実にやさしそうな目をしている。
 縦走路から左に折れて、いよいよ大天井岳の登りにかかる。正直言ってこの登りが一番苦しいところだった。かなり体力は消耗し、後は気力だけだった。大天荘に着いてからも、部屋にはいると頂上に行きたくなくなるのではないかと思い、荷物を置いてさっそく頂上に行く。大展望とは言わないまでも、前穂高や涸沢、上高地などを望むことが出来た。しばらくすると槍の穂先が姿を表してくれて大満足だった。
 所で、今日の宿泊場所である「大天荘」はとても気に入った。布団が清潔で、一人一枚ずつあてがわれた。お茶やコーヒーが飲み放題で、食事は「肉か魚か」まで聞いてくる。従業員も明るくてとても感じがよかった。
      平成16年8月7日(土) 晴れ後時々雨
  A大天荘(5:35)大天井ヒュッテ(6:10〜15)→ビックリ平(6:45)→西岳山荘
   (8:20〜45)→水俣乗越(9:40)→大槍ヒュッテ(11:35〜55)→槍岳山荘
   (12:45)→槍岳山荘(17:50)→槍ヶ岳頂上(18:10〜20)→槍岳山荘(18:35) 
 
 雲一つ無い素晴らしい天気の中を歩き始める。穂高と槍が朝の光りに輝いている。左手には常念とそこに至る山並みが続いている。しばらく行くと雷鳥の親子に会う。子どもが4匹親の周りをちょろちょろ歩いているのがかわいい。大天井ヒュッテからはいよいよ尾根道の縦走路に入る。いくつもの峰が連なっている。巻き道になると東側の斜面にはお花畑が表われる。ハクサンフウロとても目だっている。反対側から見る大天井岳は左が切れ落ちて右側はなだらかな稜線をつくっている。ピラミダルな常念岳はやけに堂々と立派に見える。
 新しい西岳山荘で休憩。槍ヶ岳が眼前に迫っている。ここから見る槍のモルゲンロートはさぞかし素晴らしいだろう。メールをしていて思わぬ時間をつぶして、少しあせって下り始めた。一気に下った後アップダウンを繰り返して水俣乗越に出ると、右手には黒部湖とその上に剣岳が見えた。左手はるか下にはカラフルなテントと小さな小屋が見える。
 梯子が続く尾根の先には槍ヶ岳がいろいろな表情を見せて待っている。もう槍の穂先にいる人が肉眼でも確認できるようになると大槍ヒュッテに着いた。いつもは買ったことが無いのに、あまりの喉の渇きにコーラを注文する。
 いよいよあと1kmだ。一歩一歩確実に足を進めるのみだ。左手の槍沢からはどんどん人の列が続いている。人の声があちこちにこだまして、今までの静な世界がウソのようだ。途中で雨が降ってきたが、雨具の上着をつけたとたんやんでしまった。今回の縦走で雨にあったのはこの時だけだった。
 「槍岳山荘」で手続きを済ませて部屋にはいると本格的な雨になったようだ。談話室で本を呼んでいると雷まで鳴り出した。以前登ったこともあるので、穂先に行くのは諦めていたが、6時少し前から晴れ出した。外では「ブロッケン現象」だと騒ぐ声がする。「すわぁ」とばかり外に飛び出して穂先にとりつく。一気に駆けあがるとそこには4人しかいなかった。「ブロッケン現象」が表われ、そのガスが消えると、360度の大展望。立山、剣、そして水晶岳、鷲羽岳、三俣蓮華岳と続く山並みの先にはどこからみても同じ形の笠ヶ岳。少し低い焼岳の上方に聳える乗鞍岳と御嶽山。反対側に目を転じれば、燕山、大天井岳、常念岳蝶ヶ岳といった山並みが屏風のように連なっている。まさに至福の時だ。
      平成16年8月8日(日) 晴れ
 
 B槍岳山荘(5:15)→大喰岳(5:40〜45)→中岳(6:15〜20)→南岳
    (7:25〜30)→南岳小屋(7:35)→長谷川ピーク(9:15)→
    A沢のコル
(9:25〜35)→飛騨なき(10:05)→北穂高小屋
    (10:50〜11:15)→涸沢小屋(13:25) 
 今日はいよいよ今回のハイライトであるキレット越えである。好天の中、裏銀座の山々が朝陽を浴びている。笠ヶ岳にちょうど槍の穂先が重なっている。これは貴重な光景だ。まだみんな眠っているテント場を通り飛騨乗越へと下って行く。一団が右手の槍平の方へ下りていったが、僕は一人大喰岳に向かった。結構な急斜面だ。遠くから見るとおだやかな稜線のように見える大喰岳から南岳までも結構アップダウンが激しかった。
 南岳小屋で一服して、気を引き締める。最近事故が多発している旨の看板が立っていて、いやがうえにも緊張する。小屋から先は一気に絶壁となってキレットまで落ちている。そこを梯子を使って下りて行く。折りしもヘリコプターが一機やって来て、キレット周辺を飛んでいる。まさか事故でないことを祈るだけだ。
 〇印を見つけて、三点確保で慎重に進む。これの繰り返しだ。初めて通る不安はあるものの特に危険を感じるところは無かった。やがて両側が切れ落ちたいかにも難しそうな所にさしかかった。「長谷川ピーク」である。最近つけられたと思われる足場があって、特にヒヤりとするわけではなかったが、すぐ下の「A沢のコル」に下りたとたんため息をついていた。やっぱり緊張していたのだ。
 気持ちを引き締めて急登にかかる。坂ではなくて崖を登っていた。「A沢のコル」はいつまで経っても真下にあった。北穂高岳がドーム(要塞)のように黒く聳えていた。山小屋はさながら空中基地のように見えた。もう一つの難所である「飛騨なき」も、足がかりが多かったので特に問題はなかった。
 あとは北穂高岳小屋までの急登をあせらず登って行くだけである。浮石の多い不安定な道だ。かつて北穂高岳小屋からここを登ってくる人たちを尊敬のまなざしで見ていた。「あのキレットを越えてこの絶壁を這い上がってくるとは一体どんな人たちだろう」と感心せずにはいられなかった。今、自分がその人たちの仲間になることができたのだ。小屋のテラスに足をかけた時なんとも言えない満足感で一杯になった。初めての挑戦で不安も多かったが、一つ一つ組み立てていくジグソーパズルのように、岩登りの面白さも少しわかるような気がした。
 しばらく休んで、涸沢まで下りることにした。岩がごろごろしてかなりの急登で、一度登ったことがある道だが歩きにくかった。調子がよかったら横尾まで行ってしまおうかとも思ったが、だんだん足が痛くなり涸沢小屋にはようやくだどり着いた感じだった。小屋は新しく、目の前に涸沢カール、背後に穂高連峰に囲まれたすばらしいロケーションにあった。
       平成16年8月9日(月) 晴れ
  
C涸沢小屋(5:15)→涸沢本谷橋(6:40)→横尾(7:30〜40)→徳沢
    (8:30〜40)→明神(9:20〜30)→上高地バスターミナル(10:15) 
 今日も快晴。穂高がモルゲンロートに燃えている。もうこれが見納めかと何度も何度も振り帰る。こんなに早い時間に下山する人も無く、鳥の泣き声と小川のせせらぎを聞きながら快調に下る。横尾まで来ると、下界に下りた感じになる。道は平坦だがその分長い。バードウォッチングや観光バスの団体が増えてくると上高地も近い。
 バスで沢渡の駐車場に行って、無事車を受け取る。昼食は神岡で飛騨ラーメンを食べて、3時には家に着いていた。