幌尻山荘
《第1日》 北海道地方は7月28日から豪雨だったらしく、崖崩れや流木などその痕跡は至る所に見られた。後で聞いた話では28人が幌尻山荘に1週間も閉じ込められ、ヘリコプターで食料を下ろすなど大変な騒ぎだったらしい。
この山は10回以上の沢の徒渉を強いられる大変な山だが、僕はちゃっかり東北大学ワンダーフォーゲル部の後をついていかせてもらい、本当にラッキーだった。かなり水かさが増していて、一番深い所では胸まで水につかり、ロープなしでは渡れそうもなかったのだから。
《第2日》」 朝まだ暗いうちから、針葉樹林の急斜面を登っていく。体がまだ起きていないのか、想像以上に呼吸が苦しい。
そんな時現れた『命の水』は、まさに天の恵みである。冷たくおいしい水が腹わたにしみこんだ。
残念ながら視界は良くなかった。一瞬のガスの切れ間から北カールの一部をうかがうことができたが、それも長くは続かなかった。
カールをまわりこむようにして進むとお花畑に出る。そのスケールは今まで見たどのお花畑よりも大きかった。どこまで行っても花また花といった感じで、いろいろな花が次から次へと現れてきた。それらの花々が、折からの濃い霧でしっとりと濡れていて、それがまた幻想的であった。
頂上からは、近くの戸蔦別岳を始め、日高の連山が望める筈であるが、真っ白なガスの中。冷たい風が強く吹き抜け、とても長居はできなかった。当初は戸蔦別岳を経由し、小屋にもう一泊してから降りる計画であったが、雨が心配なのと、クマが出没しているという話しを聞いていたのですぐに下山することにした。
幌尻山荘を出ると、バケツをひっくり返したような大雨になった。川はみるみるうちに茶色の濁流となり、水かさも増してきたが、幸い雨はすぐにやんだ。そこで沢登りの経験のある新潟の夫婦と一緒に迷わず下山した。三回ロープをかけてようやく取水ダムにたどり着いた時には心からホッとした。