アイヌ語で利尻は「高い島」という意味だそうだが、フェリーから見ると山全体が海にぽっかり浮かんだ島に見える。前回訪れたのはもう10年以上前になるが、あの山に登ろうとは思いもしなかった。今回はあの山に登るためだけにやってきたのだ。
鷲泊港からタクシーで登山口に行こうと思ったが、どのタクシーも予約でいっぱいだった。もたもたしていたくなかったので港から歩くことにした。
山に入ると、木々の間にさわやかな風が渡っていた。こんなに気持ちのいい風を感じながらの登山は初めてといってよかった。葉っぱも頭上でサラサラと音をたてていた。六合目から、周りの海が見えてくるようになった。礼文島も随分近くに見え、所々雲におおわれていた。
木はだんだん低くなり、やがてトンネルのようになってきた。木が生えていない場所に来ると、もう「さわやか」とは言えないくらい強い風になってきた。イワギキョウが、海からまともに吹き付ける風に必死に耐えている。
長官山まで来ると、念願の頂上がようやく姿を現した。そこから見る頂上はマッターホルンのように鋭く尖って見えた。そして、強風にあおられて綿のような雲が頂上を巻くように流れていた。
「ここからが正念場」の看板通り、火山礫の歩きにくい道が続き、崩壊して危険な個所がある。そして、海から直接吹きつける風でヨロヨロと真っ直ぐ進めない。細かい砂が舞い上がり目をあけていられないほどである。 頂上には小さな祠があり、三百六十度の大展望である。まさに、鳥にでもなった気分である。礼文島が随分下に見える。
相変わらず、雲が張り付いている。北海道本土も意外と近くに見える。足元から絶壁であり、転げ落ちたら海まで行ってしまいそうだ。
帰りは随分長く感じた。麓の野営場に着くころには薄暗くなり始めた。甘露泉で飲んだ水が美味しく、息を吹き返した思いがした。よっぽどタクシーを呼ぼうかと思ったが意地になって鴛泊まで歩いた。完全に暗くなるし、今夜の宿も決まっていなかったので、心細さでいっぱいだった。
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利尻島の頂上から見た礼文島
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