三年前、猿倉からの日帰り登山をやっているが、今回猿倉から栂池までの日帰り縦走登山に挑戦してみることにした。夜明けとともに歩き出 すと、白馬尻小屋の手前の林道でモルゲンロートに輝く白馬だけを目にすることができた。山は朱色から黄金色にかわり、あっという間に本来の自然の色に変わっていった。
早朝のためか大雪渓の雪は堅くアイゼンが良く利いて気持ちがいい。雲一つない青い空をバックにそびえる山々、その前に広がる大雪渓、絶妙のコントラストだ。耳を澄ますと、小さな落石が、不気味な音を立てている。
葱平(ねぶかっぴら)から避難小屋あたりまでがこのコース一番の難所である。岩がごろごろした急登を、ようやく現れだした道ばたの高山植物に慰められて何とかのりきる。振り返れば雨飾山が雲の上にぽっかり浮かび、眼下の雪渓には登山者の列がアリのように続いている。
前回トラバースした小雪渓も、雪が少なかったせいか、右から回り込むようになっており雪を踏まずに越えることができた。村営白馬岳頂上小屋までは高山植物の宝庫。疲れも一気に吹き飛んでしまうところだ。今もっとも目立つのはミヤマキンポウゲの黄色だ。それにクルマユリが赤いアクセントをつけている。左奥には白馬三山の杓子岳と鑓ヶ岳が迫力のある姿を現していた。
頂上には思っていた以上に早く着いてしまった。一日で縦走しなければいけないという緊張感 があったためかも知れないが、早朝だったので僕の前に誰もいなかったというのも大きかったのではないかと思う。残念ながら前回よく見えていた剣、立山はようやくシルエットをとどめる程度だった。しかし、雪倉岳から朝日岳への稜線がきれいに見え、苦労して縦走したときのことを思い出ししばし感慨にふけっていた。これから登る小蓮華(これんげ)山の頂上部にはあやしげなガスが流れていた。
これから先は初めての道である。木が一本も生えていない砂礫の山は異様な感じだ。三国境(さんごくさかい)あたりから見る雪倉岳は一段と堂々としており、ハエマツでおおわれた山容は北海道あたりの山を思い出させる。いくつかのアップダウンを繰り返して小蓮華山に着く。大きな剣が突き立てられており、ひと気がなかったこともあり、なんとなく不気味な頂上だった。
この縦走路には時々思いがけないくらいたくさんの花々が現れて、登山者の目を楽しませてくれる。ウルップソウ、イワギキョウ、コバイケイソウ、ハクサンイチゲなどである。雷鳥坂では雷鳥が砂かぶりをしていた。二メートルくらい寄っても驚く気配はない。やがて白馬大池が見えてくる。湖岸に赤い屋根のヒュッテが建っている。三十数年前、大学生の時見た景色である。白馬の学生村に滞在していた僕は、一人でここまで足を延ばしたのだ。
ここからはもうバテバテであった。岩の上や石の上を歩く道は、この上もなく体力を消耗した。それでも十時間のアルバイトを終えてロープーウェイに飛び乗ると、言い表せない満足感がふつふつとわき上がるのであった。 |