海外トレッキング日記  スイス  1995年

 8月4日(金)
 晴れ
 7:05の雷鳥で大阪へ。環状線で天王寺へ行き、快速で関空についたのは10:40。予想以上に時間がかかってしまい非常にあせった。すぐ手続きをしてゲートへいったら、搭乗が始まった。それでも家には電話した。
 定刻の12:00シンガポール航空で出発。5時間ほどでシンガポールに着いたが、待ち時間が7時間ほどあり、これが退屈だった。30分以上遅れ現地時間の0:00チューリッヒに向けて出発。
 8月5日(土)
 晴れ
 グリンデン
 ワルト

 テレキャビン(30分)→フィルスト(80分)→バッファアルプ湖
 10時間ほどのフライトで6:30チューリッヒに着く。7:43発の急行でベルンに行き、そこで9:26発のインターラーケン行きに乗り、さらに登山電車に乗り換えてグリンデンワルトについたのは11時過ぎ。目の前に白い山、青空の中にパラグライダーが優雅に飛んでいた。「何てすばらしい世界に来たのだろう」というのが第一印象。考えていたホテルにрオてみたが満室。仕方なくインフォメーションで紹介してもらう。駅の近くのいいロケーションだったが部屋が薄暗いのにはまいってしまう。
 すぐチェックインして、12時半頃ディパックひとつででかける。テレキャビンの中でサンドウィッチの昼食。いま自分がこうしていることが不思議で仕方が無かった。終点のフィルストにはレストランや売店があり、人でにぎわっていた。テラスからの展望がすばらしくヴェッターホルン、シュレックホルン、アイガーなどが目の前に連なっていた。
 幅の広いきれいな道を歩き始める。左下は大きな谷になっており、放牧された牛のカウベルがこだましていた。緑の草原に様々な花々。アルプスを実感できる道だ。子供から老人までみんな思い思いの服装で歩いている。若いアベックが草原に腰かけており、それが周りの風景とよくマッチしている。
 バッファアルプ湖はさざなみひとつ立っていず、ヴェッターホルンとシュレックホルンをきれいに映し出していた。しばし、我を忘れて湖畔にたたずんでいた。
 ゆっくり戻り、ホテルに着いたのは5:30.シャワーにはいり、やっとさっぱりした。
 8月6日(日)
 曇り時々晴れ
 グリンデン
 ワルト

 

 テレキャビン(30分)→フィルスト(120分)→グローセ・シャイデック
 4:00に目が覚めてしまい、今日の行動について調べていた。6時過ぎに駅に行ってモーニング・チケットを買う。これだと制約はあるが、かなり割安になるのだ。
 7:18の登山電車でクライネ・シャイデックまで行き、いよいよユングフラウ鉄道に乗ってユングフラウ・ヨッホを目指す。途中アイガー氷河を見て、アイガーでは5分停車してくれ、岩に彫った窓から下の雄大な景色を見ることができた。
 ユングフラウ・ヨッホ駅はちょっとしたホテルのロビーみたいだった。余り視界はよくなかったが、アレッチ氷河がずっと下まで続いていた。外に出るとそこは冬の世界だった。本格的な装備で山から戻ってきた人や夏服の観光客やスキーヤーなどが入り混じって不思議な所だった。アイスパレスという氷河をくりぬいた洞窟をとおり、10時の電車で帰る。
 いったんホテルに戻り、2時ごろトレッキングに出かける。昨日と同じルートでフィルストまで行き、そこから右に折れてグローセ・シャイデックを目指す。途中の道に大きな牛がいたのには驚いた。しばらくにらめっこをしていたが、引き返すこともできず意を決して横を歩く。牛の方は僕など意に返していないようだった。もっとも牧場を歩いているこっちが悪いのかもしれないが。小川があり、花も一杯咲いていて「アルプスの少女ハイジ」の世界だった。
 グローセ・シャイデックの近くでラジコン・グライダーをしている大人達がいた。上昇気流に乗ってほんとうに良く飛ぶ。グライダーなので音が全くしないのもいい。ポスト・バス(郵政局の管轄で人と同時に郵便物も運ぶというユニークなバス)を待つ間、あたりを散歩する。たくさんの池塘がありワタスゲとヴェッターホルンが水に映っていた。
 8月7日(月)
 晴れのち曇り
 グリンデン
 ワルト

 登山電車(30分)→クライネ・シャイデック(90分)→ウェンガーアルプ
 5時起床。朝食を急いで食べて駅へ行ったが、8:19まで電車は無かった。大きなリュックは「チッキ」で先にミューレンに送る。距離に関係なく値段が同じというこのシステムは個人旅行者にはとてもいい。
 クライネ・シャイデックから歩き出す。ガイドブックなどには線路に沿ってウェンガーアルプまで行くコースが紹介されているが、僕は良く分からずに標識に沿ってどんどん左手の丘に登っていった。それはひょっとして正解だったのかもしれない。そこは牧場の中の道で、緑の草原の中に黄色い花が咲き乱れていた。そしてふと目を上げるとそこにはアイガー、メンヒ、ユングフラウのベルナー・オーバーラント三山が圧倒的な迫力でそびえていた。この三山を見るための自然の展望台といってもよかった。お花畑を歩きながら山を愛でる。あたりには人っ子一人いず、まさに別天地であった。やがてはるか下のほうにウェンガーアルプ駅が見えてきたので下山にかかる。
 ラウターブルンネンまで登山電車で行き、バスで珍しい地中の滝であるトリュンメルバッハの滝、シュタウプバッハの滝を見てミューレンへ行く。電車の中から見えたホテルに飛び込む。ベランダからアイガーとメンヒが見えるすばらしいロケーションにあった。こんなのは気ままな一人旅の特権である。
 すぐロープーウェー乗り場に行き、シルトホルンの2970mの展望台へ行く。頂上に近づくにつれてガスがでてきて視界が悪くなってきた。しかし展望台でしばらく待っていると短い時間ではあったがガスの切れ間からベルナー・オーバーラント三山の姿を見ることができた。ラッキーだった。 
 8月8日(火)
曇り
 早朝、荘厳な日の出と赤く染まる神秘的な山々をあかず眺めていた。
 ビデオカメラの電池がなくなって来て、充電しようにもコネクターが合わないので予定を変更してアダプターを買いにジュネーブへ行くことにした。こんな思い切ったことができるのも乗り放題のスイスパスのおかげである。
 8:30の電車でミューレンを発ち、インターラーケン・オストからツバイジンメンまで行き、いよいよガラス張りの「パノラマ特急」に乗る。一番前に座って思い存分に景色を楽しむことができた。
 モントルーに12:30着。トロリーバスに乗ってシオン城へ行く。今日のハイライトだ。2時ごろ駅に戻り家にрオたり、「地球の歩き方」に載っていたホテルにрオて予約したりした。
 15:07発の急行でジュネーブへ。駅から歩いて3分の所にあるホテルにチェック・インしてすぐデパートに走る。店員に聞いても要領をえないので自分で探したら見つかった。これで充電できる。
 8月9日(水)
晴れ
 シャモニ経由でツェルマットに行くことにした。8:30発のバスでシャモニへ向かう。着いてすぐ例によってホテル探し。2つ星でいいのがあったのでチェック・インして、ロープーウェー乗り場に行き並んでチケットを買う。12:40発のチケットを買うことができたがまだ1時間以上あった。
 モンブラン直下のエギーユ・デュ・ミディまでロープーウェーに乗って行く。ロープーウェーにしてはスピードが速い。エレベーターで3842mの展望台まで上がると、白いモンブランが手にとるように見えた。雪の上に人が歩いた跡が頂上まで続いている。小さな点となって人の姿も確認できる。下に下りてみると、ザイルに繋がれた登山者が「はぁーはぁー」言いながら戻ってくる。なんとたくましく見えたことだろう。階段を登る時息切れがした。この高度はなにしろ初めての体験だ。天気はいいのに寒暖計を見ると0℃を指していた。
 8月10日(木)  晴れ

 ツェルマット
 
 ケーブルカー(5分)→スネガ(30分)→フィンデルン(90分)→ツェルマット
 7:58の汽車でVALLOROVEに向かいモンブラン・エキスプレスでマティニへ。そこから急行でブリーク経由でツェルマットについたのは1時過ぎだった。すぐ駅前の「地球の歩き方」に載っていたホテルに行ってみたがフロントは留守で日本人が3人待っていたのでやめにした。「地球の歩き方」のホテルは助かることも多いが、若干偏りがあり、余りにも日本人に知られすぎていて、泊まってみたら日本人で騒がしすぎるということもあるので注意が必要だ。
 駅前のホテル直通の電話から電話するとうまい具合に部屋を取ることができた。すぐ電気自動車で宿の主人が迎えにきてくれた。ここは一般の自動車は乗り入れ禁止の街である。すぐホテルの近くのケーブルカー乗り場に行きスネガまで行く。下りて外に出るとびっくり。何と真正面にマッターホルンが見えた。そこからは常にマッターホルンを見ながらの快適なハイキングコースだ。時々小さな村が現れ、それがマッターホルンの雄姿とともにとても絵になる風景だった。歩くのにも飽きた頃、針葉樹林の森の中に入り、ゴルナーグラート鉄道の線路を横切るとツェルマットに戻る。
 8月11日(金)
晴れ

 ツェルマット
 登山電車(40分)→ゴルナーグラート(60分)→リッフェルゼー(60分)→リッフェルアルプ
 テレキャビン(7分)→ロープーウェー(10分)→シュバルツゼー(150分)→ツェルマット
 まずゴルナーグラートまで電車で行く。車内は日本人の団体であふれ返っていた。でも展望台で写真を撮ってもらうのにはちょうど良かった。山岳ホテルがある展望台からはモンテローザやリスカムなど4000m級の山々が手にとるように見え、主役のマッターホルンが奥に控えていた。まさに360度の大展望である。
 寂しく一人で歩き始める。あの喧騒がウソのように誰もいなくなった。やがて左手にゴルナーグラート氷河が圧倒的な迫力で迫ってきた。やがて「逆さマッターホルン」で有名なリッフェルゼーに着く。想像していた湖とは違って、「かわいい池」といった感じだ。上部は少し雲に隠れている。
 緑の草原の中に小さな教会がある。その頃になると天気はどんどんよくなり、途中で会った東京から来た夫婦と「すばらしいですね」を連発しあった。教会とマッターホルン、これもなかなか絵になる風景だった。
 リッフェルアルプからまた電車に乗って12時ごろホテルに戻る。朝食のときもらっておいたパンで昼食。基本的にはこのパターンなので昼食代が浮く。
 1時過ぎ今度はテレキャビン、ロープーウェーを乗り継いでシュバルツゼー迄行く。マッターホルンが常に左手に見えている。ツェルマットの展望台の中でははマッターホルンに一番近い所として知られている。残念ながら上部にはガスがかかっている。シュバルツゼーとは「黒い湖」と言う意味だが、曇ってきたこともあって本当に暗く見えた。対岸に小さな小屋が見え、山をバックに寒々と立っているように見えた。
 そこからツェルマットの街を目指して歩き始めた。途中にきれいなお花畑がいくつもあった。ただ、山を背にして歩くので、何となく魅力をそがれるようなところがあった。ひたすら下りていくといった感じで、終いには足ががくがくしだした。              
 8月12日(土)
 雨
 朝サンモリッツのホテルへ電話して予約をする。いよいよ「氷河特急」8時間の旅だ。今日はスイスへ来て初めての本格的な雨。でも移動だけなのでラッキーだった。氷河特急といっても氷河は見られないし、スイスの景色にもそれ程感動しなくなっている。
 8月13日(日)
  曇りのち雨
 9:30発の「ベリニナ特急」に乗ってイタリアとの国境を目指す。何ヶ所か氷河が見えてこちらが「氷河特急」といってもいいのではないかと思った。アルプグリュムで降り、パリュ氷河を見る。今度は反対側の電車に乗りディアヴォレツッアの展望台にロープーウェーに乗っていく。ここはベルニナ山脈の展望台だ。
 すぐ来た電車で戻り、モルテラッチ氷河まで1時間ほど歩く。氷河が不思議なほど青かった。
 サンモリッツの駅から3:10のバスに乗り、シルス・マリアのニーチェ博物館に行く。トーマス・マンやヘッセの手紙もあって興味深かった。
 8月14日(月)
  雨のち晴れ
 8:15発のパーム特急(バス)でイタリア経由でルガノに向かう。有名なコモ湖を通ったが、停車しなかったのでがっかりだった。12時ごろルガノに到着。ルツェルン行きの列車を確認してから、ロッカーに荷物を預けて市内を散策した。イタリア圏だからか日差しも明るく、人も明るい気がした。
 14:55発のECに乗り、6時近くルツェルンに着く。人に聞いてようやくカペル橋を見つけ、予約してあったまん前のホテルにチェックインする。ベランダからすぐ下がカペル橋というすばらしいロケーションだった。暗くなるとライトアップされて、一段と幻想的であった。
 8月15日(火)
晴れ
 早朝徒歩でライオン記念碑やリムゼック城壁などを見て、9:10の急行でチューリッヒに行く。荷物を預けて10:15のクール行きに乗り、ザンガスで11:30発のPTTバスでリヒテンシュタイン公国へ行く。たくさんの屋台と人であふれお祭のようだった。2:00のバスで同じルートを戻り、チューリッヒには4時ごろ着く。
 「地球の歩き方」の通りに1時間30分ほど市内を歩く。チューリッヒはこれが3回目なのでいろいろなことが思い出された。特に新婚時代に家内と2人で歩き回ったことなどを。5:15の電車でチューリッヒ空港へ。22:00離陸。
 8月16日(水)
 現地時間で4:00シンガポールに着く。イタリア人(と思っているのだが)から拍手が起こったのには笑ってしまった。クレジットカードで電話がかけられることを知って、家にかけてみる。懐かしさが一気に伝わってきた。