十勝岳は2年前登山口の望岳台まで来たが、あまりにも濃い霧のため登山を断念した山だ。しかし、富良野あたりからよく見えだし「やっぱり登ればよかった」と後ろ髪を引かれる思いで北海道を後にしたのだった。したがって、望岳台までは勝手知ったる道である。
前日きれいに見えていた頂上部も、今日は厚い雲の中である。1926年の大爆発の時に 泥流となって流れた跡であるという幅の広いゆるやかな傾斜の岩でゴロゴロした道を歩き始める。
十勝岳避難小屋を過ぎると道は左に折れ、傾斜もきつくなっていく。前方を見ると雲一つ無い青空。北海道や高山だけで見られる紺青の世界である。どうやら雲の上にでたらしい。足元にはコークスのように黒い小石がころがっている。
標高1720m地点を過ぎると景色は一変する。岩から砂の世界に変わる。それに しても奇妙な山だ。生物の気配が全く感じられない。他の惑星の砂漠を歩いているようだ。右手の新噴火口か噴煙が激しく立ち上っている。火山活動が活発なため前十勝コースは今は登山禁止になっており、近づくことはできない。左手の頂上部は鋸の歯のようにギザギザしている。鋸山だ。
やがて十勝岳本峰が見えてくる。赤い岩と赤と白の奇妙な色をした土の急斜面は一体どこから登るのだろうかと不安になってくる。
近づくとピンクの小さな旗が立っており、何とか迷わず頂上に立つことができた。右手(北)には緑色の美しい富良野岳、左手には美瑛岳、そしてその左 の雲海に昨日登った大雪の山々が顔を出していた。
帰り十勝岳避難小屋の手前で中学生の一団に会った。「先生頂上はまだ?」と聞いている。最後尾には苦しそうな顔をした男の子が2人つらそうに歩いている。現在8時15分。果たして頂上までたどり着けるだろうか。引率の先生の苦労がしのばれた。
陽は高かったが、帰路吹上温泉「白銀荘」に寄る。露天風呂から見上げると十勝連山がよく見える。風呂に入りながら今登ってきたばかりの山を鑑賞できるなんて何とも贅沢な気分であった。 |