No.58          空木山(2864m)

      
平成12年7月8日(土)〜9日(日)   曇り→晴れ
 @駐車場(10:40) → うさぎ平(12:25〜45) → 八丁のぞき(13:15) 
  → 6合目(13:50〜14:00) → 7合目(14:45) → 仙人の泉
  (15:00〜05) → 8合目(15:55 〜16:00) → 木曽殿山荘(17:25)
  A木曽殿山荘(4:45) → 空木岳(6:05〜25) → 木曽殿山荘
  (7:20〜8:15) → 8合目(9:10〜15) → 仙人の泉(9:40〜45) → 
  6合目(10:20〜30) → 八丁のぞき(11:00) → うさぎ平(11:20) →
  駐車場(13:05)
 台風が日本列島に近付いていると知って、女性軍2人はリタイアしてしまった。家族の心配を考えると無理もないことではある。上陸が関東地方であり台風一過の青空のことを考えるとわれわれ男性群には一瞬の迷いもなかった。決行である。
 
赤岳
空木岳に登るのには駒ヶ岳ロープーウェイを使い宝剣岳から縦走してくるのが普通だが、われわれは木曾谷から入った。激しいアップダウンを繰り返して長時間かけるよりは短時間で一気に登ってしまったほうが良いように思えたのである。これは時間の短縮になったかどうかは分からないが、結果的には大正解であった。
 林道を歩き始めるとすぐWさんが「熊だ」と叫んだ。前方を見るところころ太った犬のようなものが走っていてすぐ視界から消えた。僕は「犬ではないだろうか」と若干の期待を込めて尋ねた。心の中では熊の子であることは確信していたがどうしても信じたくなかった。ましてや子のいるところにはかならず親熊もいるはずである。熊避けのベルを持ってこなかったことを後悔する。後で山小屋の主人から聞いた話では、この辺りで3頭の親子熊が何度も目撃されているそうである。
 延々と林道を歩き登山道の入り口であるうさぎ平に着くと、今度は「親子熊出没注意」の看板である。覚悟を決めて少し荒れた登山道に入っていったが、現金なもので少し時間が経つと熊のことはすっかり忘れていた。
 こんなに静かな山歩きはかつてあっただろうか。人には誰にも会わないし、聞こえてくるのは林間を渡る風の音とまだそれほど多くないセミの声だけだった。
 Wさんは苦しそうだった。高山病ですぐ息が荒くなる。かなりのタイムオーバーだったが無事木曾殿山荘に着く。想像していたよりずっと素敵な山小屋だった。そして土曜日だというのに宿泊客はわれわれの先に同じ道を登っていた男性と合わせてたった3人だった。何でも台風の影響でロープーウェイが動かず、縦走客が1人もいなかったのだ。
 山小屋は夫婦と娘でやっており、とてもアットホームで感じがよかった。2階の広い部屋をたった3人で占領し、しかも山小屋らしくないフカフカのふとんで思わず笑みがこぼれてしまった。窓から伊那の街明かりが見え明日の天気も約束されたも同然である。
 山小屋では珍しく8時間もぐっすり寝てしまった。途中からではご来光は見えないと言われたので小屋の前で待つ子とにした。八ヶ岳上空の雲が金色に光り出すとアッという間に太陽が姿を現した。敬虔な気持ちにさせられる程素晴らしいご来光であった。
 空木岳は3つ目のピークだと教えられていたが、眼前に迫る1つ目のピークがこの上なく手強そうであった。少し登って下を見ると、木曾殿山荘と尾根の太陽が当たる右側だけが赤く輝いて見えた。そして西の方を見ると空木岳の山塊が山々の上にくっきりと影を落としていた。
 宝剣岳からの縦走路
 次々と現われる高山植物に励まされて、とうとう剣岳のような岩山の頂上部に達することができた。同行の新潟県の人は、昨年は雨と風に阻まれて頂上を踏むことができず2年越しでようやく夢がかなったと言って感激していた。
 頂上からは大展望をほししいままにできる。まず目に飛び込んでくる緑の縦走路。その行き着いた所には宝剣岳と木曾駒ヶ岳。山並みの後ろに圧倒的な迫力でそびえている御嶽山。その右に乗鞍岳、穂高連峰。槍は一番右手に見える。太陽の方角に目をやれば八ヶ岳と南アルプスのスカイラインが見える。空木岳から続いているのは南駒ヶ岳、その右手に恵那山。しばらくして御嶽山の左手に白く輝くわが白山まで見えてきた。なんという幸運であろうか。