穂高連峰
前日、西穂高の山頂から燃えるように赤い焼岳を眼下に見ている。
次の日西穂山荘からその焼岳を目指した。西穂からは意外と近くに見えた焼岳も、樹林帯にはいってしまえばその姿は見えず、ぬかるんだアップダウンを繰り返す手強い道のりであった。
メインの道から外れているためか(大抵は上高地から登る)日曜日だというのにほとんど人に会わない。朝露にズボンをぬらし、くまざさに足を取られながらも、木々の間に新中尾峠に建つ焼岳小屋の緑の屋根を目にした時はホッとしたものである。
そこから少し行った所にある焼岳展望台からは、焼岳の赤紫の偉容が圧倒的な迫力で見る者に迫ってくる。1990年まではここまでしか入れなかったらしい。果たして人が登れるのか、と後退りしたくなる程の絶壁に思わず身震いする。
背後には穂高連峰がそびえ、その左端に槍ヶ岳が申し訳なさそうに立っている。昨日登った独標や西穂高はピラミッドの先のように尖っている。
そこからは、荒涼とした火山の砂礫の道を、一歩一歩足を運ぶのみである。運動靴の生徒はズルズル後戻りして歩きにくそうである。皆に同情されていたが、少しかわいそうであった。
目指す頂上の岩場に人が立っていた。あんな所にどうやって登るのか不思議で仕方がなかった。いよいよ硫黄の匂いがたちこめ、あちこちの噴気口から蒸気が吹き出していた。頂上近くでは岩を触ると熱く、噴気口のまわりは硫黄で黄色くなっていた。
リュックを置いて、岩塊をひと登りするとピークに出た。想像していたよりも広くて平らだった。そしてそこは北アルプスの大展望台であった。雲一つ無い青空の下、左から笠ケ岳と抜戸岳、折り重なるように鷲羽岳と水晶岳その右手に丸みを帯びたピークを持つ野口五郎岳、そして正面には真打ちである槍、穂高の山並み。右手眼下には上高地。大正池も見える。まさに至福の時であった。
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