実は前日黒部五郎岳や黒岳、鷲羽岳を登るつもりで4時間以上をかけて折立から太郎平小屋まで入っていた。ところが、あまりの風の冷たさと翌日の雨の予報に、3000m級の縦走の意欲がすっかり失せていた。前回来た時の花の多さに比べ、季節柄当然ではあるが花は無い。来年のベストシーズンの再挑戦を誓って10時には下山を始める。
帰り道、「どうせ雨ならまだ蔵王のほうがいいのではないか」と急遽計画を変更。2時過ぎに立山ICから車を飛ばし、7時過ぎには東北自動車道の国見PAに到着し、明日に備えてそこで寝る。
「蔵王エコーライン」を通 り7時ごろ苅田岳の駐車場に着いたが、強い風と濃霧で全く歩ける状態ではなかった。いったん蔵王高原坊平まで退避して、天候の回復を待つことにした。こんなとき本好きは退屈しないのでいい。ちなみに読んでいたのは「日本百名山の背景」という新書本であった。
2時間程すると空が明るくなってきたので引き返す。朝は早かったからか有料道路代は取らなかったが、今回は当たり前ではあるがチャンと取られた。土曜日とあってか駐車場はバスや自家用車で大変混雑していた。
何も見えないことも覚悟して11:00レストハウスの所から歩き出す。ちょうどハサのように棒が立っているので迷うことはないと思ったが、足元を見ながら慎重に歩いていった。帰ってくる人にもちらほら会ったが、みんなしっかり雨具をつけていた。
不思議なことに、熊野岳の登りに差しかかる頃スーッとガスが引いて、緑のなだらかな丘が全貌を現してきた。道は二手に分かれているが左の直接熊野岳に向かう道を取る。頂上には熊野神社が祀られているが、頂上部は広い。そこから正面に見えるのは堂々と横たわる地蔵山である。春に登った雨乞岳を思わせる女性的なスカイラインである。その左下には 山形市、さらに左手には上山市の街並みと上山競馬場が肉眼でも良く見える。
帰りは避難小屋まで、広い頂上部の緩やかな尾根歩きである。季節であればコマクサの大群が見られるところである。
避難小屋脇から、火山岩のゴロゴロした道を駆け下り、そして一段高くなった所に駆け上がって下を見ると、なんとそこには蔵王の象徴とも言うべきお釜がエメラルドグリーンの輝きを放っていた。しばらく水面を眺めているうちに、10数年前家族旅行でここを訪れた時のことを思い出してちょっと感傷的になってしまった。
レストハウスで遅い昼食をとったが、そこからの展望は素晴らしかった。熊野岳から避難小屋にかけての広々とした頂上部が良く見え、いつまでもそこから立ち去りがたかった。 |