第24回北陸消化器内視鏡技師研究会 発表原稿 平成16年11月28日 |
1.内視鏡検査における究極の患者満足のための工夫 〜北陸初 内視鏡専門医院の5年間の取り組み〜 はやかわクリニック 内視鏡検査技師 ○吉岡 史子 松柳 由香、中村 あゆみ (はじめに) 当院は2000年4月に北陸で初めて無床診療所として二部屋内視鏡室を備え、スタートしました。当院では診療所全体を患者様が安心に検査を受けられ、また待ち時間も快適に過ごして頂けるように工夫し、設計されました。すべての患者様は正確で安全安楽な検査を切望し来院します。検査の満足度を左右するのは医師の技術ですが、私達の検査への工夫もまた検査の満足度を高めることができると考え、これまで様々な工夫を凝らしてきました。今回私たちが当院で行っている工夫について検討し、究極の患者満足度を目指したいと考えました。 当院は医師1名、看護師2名、臨床検査技師1名であり3名とも内視鏡技師免許を取得しています。昨年11月より電位カルテを導入し、画像ファイルを使って捜査の所見用紙、生検結果を管理しています。胃、大腸内視鏡検査は予約なしで検査しており、一日平均検査数は25件です。ポリペクトミー、痔結紮術は日帰り手術で行っています。 (結果) 工夫点1《検査前の更衣と説明のパンフレット》 検査の患者様には鍵が掛かる専用ロッカーを使用してもらい、検査着に着替えてもらっています。検査着は様々な体型や年齢に対応できるように10種類以上用意してあります。 替えのパンツやパットもあり、必要時使用してもらっています。検査までの待ち時間には私達が作成した検査の手順とよくある質問Q&Aのパンフレットを読んでもらっています。 工夫点2《咽頭麻酔》 セデーションは患者様の希望で使用しています。それらにより凍らせたキシロカインビスカスを舐めてもらう場合と従来のビスカスを咽頭に流し込む方法の2通りで行っています。セデーションを希望される場合は凍らせたビスカス、咽頭麻酔のみの患者様には従来のビスカスを使用し、ファイバーは細径のXP260を使用しています。 工夫点3《大腸カメラの前処置》 下剤飲用水用コップは周りが凍るコップを使っています。下剤を作る水は天然水を使い、氷もいれ冷たくして飲んでもらっています。また、いろんな種類のフルーツ味の飴も置き、自由に舐めてもらっています。また、排便の確認方法はトイレに貼ってあるパネルの番号を言ってもらっています。 工夫4《検査患者用待合室》 2階に2部屋ある待合室は主にCFまでの前処置に使用しています。洋室はゆったりしたソファーと大型TVを置き、DVDを鑑賞できるようにしてあります。和室には畳とコタツ、リクライニングシートを用意してあります。また、熱いお茶、冷茶と飴を用意し自由に飲んで頂いています。主に和室を女性専用にしてあります。 工夫5《接遇》 当院では患者様へより満足してもらうための13の社訓があります。接遇に関しては7つの社訓を実践し、患者様の満足度を上げるための努力をしています。 1、
患者様の為に働きましょう。 2、
患者様に対して奉仕の心を持ちましょう。 3、
来院してくださる患者様へ感謝しましょう。 4、
患者様に対して思いやりの心を持ちましょう。 5、
患者様に進んで挨拶をしましょう。 6、
患者様に対して礼儀正しくしましょう。 7、
患者様に対して笑顔で接しましょう。 以上が接遇の7つの社訓です。 (考察) 工夫1について 検査着は検査時の嘔吐や排便による汚染を防ぐだけでなくリラックスして過ごすために効果的であると思われました。当院は予約なしでも検査を行っている為、検査数が30件以上になることも多く、待ち時間に当院オリジナルの検査手順や質問コーナーQ&Aのパンフレットを一読することで、検査の理解が深まり、業務の効率化と検査までの不安の軽減に役立っています。検査数が多い時は患者様は検査までかなり待つことになるため、検査までの待ち時間を知らせたり、待ち時間の苦痛をねぎらう声掛けも大切であると思われました。 工夫2について 胃カメラ時の前処置では凍らせたビスカスは患者様に非常に好評でした。丁寧なインフォームドコンセントとともにセデーションの有無を患者様に選択させる事は安全な検査につながります。また、セデーションの有無に応じてファイバーを使い分けすることで検査の苦痛を軽減できると思われました。 工夫3ついて CF時の下剤飲用は患者様にとって非常に苦痛であるため、飲みやすくする工夫はもちろん大切ですが、患者様の気持ちを思いやり頻回に訪問し、優しい言葉掛けと励ましもそれ以上に必要と思われました。トイレに取り付けたパネルの番号での排便の確認方法は高齢者でも分かりやすく、確認がしやすくなりました。 工夫4について 検査専用待合室は男性、女性用と分けることで特に女性の方がリラックスできるようでした。遠方からの患者様は家族と共に来られることが多いため、くつろげる場所があることは一緒に来られた家族の方にもとても喜ばれていました。また、飴や、お茶は患者様の空腹を紛らわすのに役立っていました。 工夫5について 当院は医業はサービス業だという強い意識のもとで接遇に非常に力を入れています。また、当院の意見箱にはスタッフの対応に対する感謝の言葉がよく入っています。このことより親切で優しい応対は正確で安全安楽な検査の次に患者様が求めていると考えられました。 (まとめ) 15年度の検査数は5000件を超えました。今年度の8月末時の検査数は前年度を上回っています。今後も患者様は内視鏡専門医院という認識で、期待して来院することと思われます。今回の検討より現状の工夫点については問題がないと思われましたが、検査数の増加による、長い待ち時間による苦痛が懸念されました。また、検査の忙しさから、どうしても接遇に掛ける時間が少なくなってしまうことが考えられます。これらのことより、患者様の気持ちを思いやるねぎらいや優しい声掛け、また親切な対応は究極の満足を目指すために大切であると思われました。また、更なる工夫を凝らす努力も患者様の安全安楽な検査を行うために必要であると思われました。 2.全大腸内視鏡検査における腸管洗浄に関与する原因の検討 福井赤十字病院 消化器科外来・中央内視鏡室 内視鏡技師 ○高橋 桂子 看護師 丹尾 八千代、木下 小夜子 西森 みどり、橋本 香 塚本 ひとみ key word:全内視鏡検査、腸管洗浄 (はじめに) 全内視鏡検査は大腸ポリープ・大腸癌の早期発見の精密検査として全国的に増加しており、優れた検査診断・治療が求められている。それには腸管洗浄効果の良否が検査の優劣を分けるといっても過言ではない。 当院では、全内視鏡検査を月約140〜160例行っている。外来では良好な腸管洗浄効果を得る為にパンフレットにそって指導している。また、当日には、便の回数・性状の確認をしているが実際検査をしてみると、腸管洗浄効果にばらつきが見られる。腸管洗浄が不十分であると検査・治療への妨げとなり、検査中に必要以上の吸引や洗浄を行い、検査時間が延長し患者に苦痛を与えることとなる。「大腸検査は苦しい、二度と受けたくない」という声も患者より聞くことがある。そこで今回、アンケート調査・聞き取り調査をもとに、腸管洗浄の状態を調べることで、どのような原因が関与しているのか若干の知見を得たので報告する。 T.研究目的 全内視鏡検査における腸管洗浄に影響を与える原因の実態を知る。 U.研究方法 1.
期間:平成15年1月15日〜10月31日 2.
対象:全大腸内視鏡検査受ける外来患者98名 3.
調査期間:平成15年8月4日〜9月5日 4.
調査方法:排便障害の原因となる(食事・我 慢癖・ストレス・水分摂取・運動・病気)7)を更に独自で項目を挙げアンケートについて調査を行う。当日は、排便状態について聞き取り調査を行う。 5.
分析方法:腸管洗浄を良群・不良群に分けアンケート調査及び聞き取り調査の集計をする。アンケートの項目別に良群・不良群の比率及びχ2乗検定を行った。良群…腸管内に残渣が全くない、残渣少量だが観察に支障無い。不良群…腸管内に残渣多量だが吸引にて観察可能。吸引しても観察困難。 V.結果 1.
回収数98人、有効回答数98人、 有効回答率100% 2.
対象者の背景 3.
結果 1)アルコール摂取では、良群の中で摂取している人が61例中35例(53%)、摂取していない人が66例中31例(47%)であった。不良群の中では摂取している人が20例中3例(15%)、摂取していない人が20例中17例(85%)であった。アルコール摂取と、腸管洗浄の間には有意の差(P<0.01)が認められた。 2)CFの経験では、良群の中で経験有りが56例中54例(96.4%)、経験無しが56例中2例(3.6%)であった。不良群の中では経験有りが16例中11例(68.8%)経験無しが16例中5例(31.2%)であった。CFの経験と腸管洗浄の間には有意の差(P<0.01)が認められた。 3)腹部のOP歴では、良群の中で有りが72例中31例(43%)、無しが72例中41例(57%)であった。不良群の中では有りが24例中15例(62.5%)、無しが24例中9例(37.5%)であったが、明らかな有意差は無かった。 4)ストレスでは、良群の中で有りが72例中19例(26.4%)、無しが72例中53例(73.6%)であった。不良群の中では有りが24例中14例(53.8%)、無しが24例中10例(41.7%)であったが、明らかな有意差は無かった。 5)年齢・性別・体型・日常の仕事内容・通勤方法・住居形態・食事の回数・食事の時間・食事量・間食・牛乳摂取・1日の水分摂取量・外食・便回数・便の硬さ・便意・排便時間・腹痛腹満・痔・トイレの形態・ニフレックを飲む場所・下剤の服用については。有意差が見られなかった。 W.考察 今回のアンケート結果より、腸管洗浄の良群不良群の原因を検討した結果、アルコール摂取・CFの経験において有意差が見られた。アルコールには腸を刺激して、便通を促す効果がある。特にビールは、水分の補給や冷たい刺激を与えるほか炭酸ガスが胃を刺激して大腸反射を促す作用もある。その為、普段アルコールを摂取している人は、常に便通が整えられている状態に近いと思われ、更にニフレックを飲むことにより、洗浄効果が上げられたと考えられる。 CFの経験では、前回の腸管洗浄の良し悪しで食事内容・水分量・下剤の内服などが考慮出来たのではないかと考えられ不安や緊張による影響も少ないのではないかと思われる。 また、今回腹部のOP歴では有意差はなかったが、比率からは腹部のOP歴の有る方が不良群の割合が多い。「大腸手術後では、排便状態や腸管運動能に変化を認める」5)又、それ以外の腹部のOP後でも腸管癒着により、腸管運動能の変化がおき腸管洗浄が不良となるといわれている。ストレスにおいても有意差は無かったが、比率からストレスにより腸の蠕動運動が強すぎるために痙攣を起こし、便が通りにくい状態になっている」7)と言われていることより不良群が多いと推測したが、逆にストレスが過敏性腸炎など腸に刺激を与え腸管洗浄効果を逆に上げていたと思われる。 今回は不良群の症例が少ないということもあり明らかな差は見られなかったが、その他の原因として便秘が考えられる。今回6人が便秘ですべて不良群である。便秘に関しては食べ物の繊維不足・我慢癖やストレス・水分不足・運動不足など原因がありこれらに対する生活指導や日頃からの下剤の服用も今後必要と考える。 また、ニフレック飲水後の排便回数の基準を5回とし、洗浄効果の指標の1つとしたい。 今回、98例中不良群24例、良群74例と不良群の症例が少なかった。入院患者を除いた1ヶ月の全外来患者を対象としたため、不良群と良群の症例数に差が出たと思われる。結果ではこの期間中便潜血患者、いわゆる痔と診断され消化器症状の主訴がない患者が、98例中35例と多く31例が良群であった。このことより、検査目的を消化器症状を主訴とするCF患者のみに絞ったほうが、より原因が明確になったのではないかと思われる。 今回の研究では、不良群の症例数が少ない為明らかな結果は出なかったが、腸管洗浄に影響を与える因子を絞ることができた。腸管洗浄が不良であれば、腸内の観察が不十分となり診断の妨げになる。また検査時間の延長により患者に苦痛を与える為、今後は個別性のある指導に取り組んでいきたい。 X.結論 1.腸管洗浄の良群・不良群の原因を検討した結果 アルコール摂取・CF経験において有意差がみられた。 2.腹部のOP歴・ストレス・便秘・ニフレック飲水後の排便回数においても腸管洗浄に影響があると思われる。 Y.おわりに 今回の研究では、不良群の症例数が少ない為明らか な結果は出なかったが、腸管洗浄に影響を与える原因 を絞ることができた。今後は、CF説明時の指導内容 及び検査当日の確認内容の検討を行い個別性のある指 導を行っていきたい。 Z.参考文献 1.今村哲理(他)大腸内視鏡検査前処置の容量設定、第12回大腸検査法研究総会収録集 p318〜319、1995 2.緒方晴彦(他)大腸内視鏡検査前処置、2002 3.行政聡子(他)大腸切除後患者における腸管洗浄の効 果に関する検討、第19回日本大腸検査学会総会収録集87 4.税所宏光 第49回日本消化器内視鏡技師研究会講演予報集 p20〜21 5.佐々木一晃 大腸癌手術後症例に対する大腸内視鏡検査前処置の検討、日本消化器内視鏡学会雑誌Vol,45, No.2p127〜130 6.平塚秀雄 大腸検査の正しいマネジメント2002 7.平賀容子 便秘と東洋医学 3.咽頭麻酔剤の苦味に対する工夫 −コーヒー味の凍結麻酔剤を試みて− 富山県済生会高岡病院 内視鏡技師 ○山田 真由美 看護師 見波 由貴 医師 寺崎 禎一、南部 修二、 佐々木正寿 (はじめに) 上部内視鏡検査を施工する上で咽頭麻酔は不可欠であり、従来の塩酸リドカイン(キシロカインビスカス)を口に含む咽頭麻酔法(従来法)では、嘔気や口腔内不快感が強く、十分な麻酔効果を得ることが困難だった。内視鏡学会においてもキシロカインビスカスを凍結した麻酔剤(以下凍結麻酔剤)についての報告が数多くみられ、我々もこの方法の導入に取り組んできた。麻酔剤を凍結させることによって、咽頭部での保持による苦痛は軽減したが、苦味が強いという声が多く聞かれた。当初は甘味剤やフルーツ味のフレーバーを加えてみたが、苦味を消すことはできなかった。そこでコーヒーの苦味を加えることにより、麻酔剤特有の苦味を軽減することができ、被検者に一志の評価を得られたのでここに報告する。 (方法) 対象:過去に従来法を経験し、事前に研究趣旨を説明して同意を得られた50名(男性27名、女性23名) 方法:上部内視鏡検査開始5分前に、コーヒー味の凍結麻酔剤を前処置として使用 作製方法:キシロカインビスカス100mlに対して無糖アイスコーヒー液を10ml入れ、10回上下に振り混和する。混和したものを製氷器に注入し一晩凍結する。(一人分の凍結麻酔剤の容量は約10ml、氷の形は球状である) 評価方法:独自に作成したアンケート用紙を検査後手渡し、無記名で記載する。アンケート内容は、味の濃さ、味付け、苦味、コーヒーにより苦味が隠れているか、麻酔の味に適しているか、次回もコーヒーの氷がよいかの6項目とし3段階評定とした。 (結果) 「味の濃さ」では、ちょうどいいが多く全体の88%を占めた。(図1) 「味付け」では、好みに合う~まあまあが全体の96%を占めた。(図2) 「苦味の程度」では、強い~少し苦いが45%、気にならないが55%だった。(図3) 「コーヒーにより苦味が隠れているか」では、隠れているが40%、まあまあが50%、隠れていないが10%だっ た。(図4) 「麻酔の味に適しているか」では、適しているが64%、まあまあ適しているが32%、適さないが4%だった。 (図5) 「次回コーヒーの氷がよいか」では、はいが91%、いいえが9%だった。(図6) (考察) 今回苦味という不快感を取り除くため、味について焦点を絞り検討した。当初、甘味剤やフルーツ味のフレーバーを使用したが、凍結せずシャーベット状になったり、苦味が残存したりした。長谷川らは「人において、味覚、臭覚、視覚などの感覚が相互に影響しあって総合された味を感じる」と述べている。年代を問わず日常飲用されているコーヒーの苦味を、逆に加えることによって、より親しみやすさがでたのではないかと考える。今回の研究では厳密に「苦味」は麻酔剤によるものかコーヒーによるものかは不明である。しかし、従来法を経験した50名の内90%が麻酔剤の苦味が完全に、あるいは多少とも隠れているとした。さらに凍結麻酔剤の苦味を消そうと、コーヒーの濃度をさらに濃くすれば麻酔剤の苦味を消せると思われたが、当初の段階でコーヒーの濃度が高すぎるものは上部食道にコーヒー色が残り観察の妨げになった。今後も麻酔剤の味や形状について検討を続け、少しでも楽に検査が受けられるように考えていきたい。我々は、凍結麻酔剤の苦味を消すためにコーヒー味をつけることによりおおむね良好な結果を得たと考える。 参考文献 1)木岡一代、ほか:胃内視鏡時の有効な前処置の検討、山田赤十字病院、第13回 近畿内視鏡技師研究会 2)造田由香、ほか:上部消化管内視鏡における咽頭麻酔の工夫。第49回日本消化器内視鏡技師研究会会報、2002 引用文献 1)長谷川千鶴ほか:調理学、2~3、朝倉書店、1991 4.内視鏡を受ける患者への説明にクリニカルパスを試みて 金沢聖霊病院 内視鏡室 看護師 ○村田 千佳 内視鏡技師 河村 由美子、近藤 奈美枝 看護師 南 艶恵 内視鏡医師 橋本 憲三 T.はじめに 当院内科の胃内視鏡検査(以下検査とする)は200件で77%が外来患者である。検査は予約制であり、検査が決まった時点で、検査前後の注意点について書かれた用紙(以下、従来説明用紙とする 資料1)をもとに外来看護師が説明を行い、検査当日は内視鏡看護師が処置や検査後の説明を行っている。また当院では多くの患者が検査中にセデーションを行うが、検査終了後セデーションの効果が消失した時点で、口頭で内視鏡看護師から説明が行われる。しかし、帰宅後の患者の様子は把握できていなかった。従来説明用紙は検査前後の注意点の記載しかないため、検査の流れに添って処置や注意点を記載した方がよりよいのではないかと考え、患者のクリニカルパス用紙(以下、CP用紙とする 資料2)を新たに作成した。検査は二つの部署の看護師が関わることから、説明漏れなく安全に確実に検査を行うため。CP用紙には各説明事項にチェック欄を設け、患者へ説明した事項に看護師がチェックをするようにした。従来説明用紙とCP用紙の使い易さ、また患者の理解や帰宅後の様子について調べると共に、看護師のCP用紙の使い易さについても検討したのでここに報告する。 U.研究方法 1.
対象 1)
検査予約日に従来説明用紙またはCP用紙を渡し、内科外来看護師より口頭説明を受け、検査時にセデーションを行った患者44名(従来説明用紙24名、CP用紙20名) 2)
内科看護師7名、内視鏡看護師6名 2.
調査方法 1)検査終了後、患者質問用紙を内視鏡看護師が患者に渡し後日郵送にて回収した。 2)看護師質問紙を、研究担当者が内科外来・内視鏡看護師に渡し後日回収した。 3.
分析方法 1)
患者質問紙は『用紙について』・『理解』・『行動』・『その他』の項目で構成し回答を「はい」・「いいえ」の2段階と、「よくわかる」「ほとんどわかる」「まあまあわかる」「あまりわからない」「全くわからない」の5段階で評価してもらい集計した。 2)
看護師質問紙は患者に説明する際の使い易さに関連した8項目で構成し3〜4段階で評価してもら い集計した。 4.
倫理的配慮 患者に質問紙を配布する際に、調査の主旨を話し了解を得、質問紙は無記名で回収した。 V.結果及び考察 1.
回収率 患者質問紙は従来説明用紙19名(回収率79%)CP用紙12名(回収率60%)であった。看護師質問用紙は内科外来看護師・内視鏡看護師共に100%であった。 2.
対象の背景 平均年齢は従来説明用紙57.2歳、CP用紙60.5歳であった。 セルシン投与量は従来説明用紙では10r15名、5r4名でCPでは10r18名、5r2名であった。セルシン10r使用の平均仮眠時間は従来説明用紙で79.5分、CPで85分であった。 3.
患者質問用紙について図1・2に示す。 用紙のわかりやすさにおいては、すべての質問で「ほとんどわかる」以上の回答が従来説明用紙91%、CP用紙で差はなかった。 検査終了後の理解度においては、従来説明用紙とCP用紙を用いた説明に差はなく「ほとんどわかる」以上の回答は80%以上であり、どちらの用紙であっても理解されていることがわかった。 検査終了後の理解度においては、従来説明用紙とCP用紙を用いた説明に差はなく「ほとんどわかる」以上の回答は80%以上であり、どちらの用紙であっても理解されていることがわかった。 検査後の行動においては、従来説明用紙とCP用紙で指定された食事開始時間に100%摂取できていた。また、「消化のよい食べ物を食べたか」の質問に対しては、従来説明用紙とCP用紙共に「はい」が95%以上であり両用共に指定された行動が守られていた。その他では、従来説明用紙16%、CP用紙17%の患者に帰宅後ノドの痛みや眠気があったと回答している。これらの結果から、今回帰宅の様子について明らかにできたのではないかと考える。今回の回答より帰宅後までノドに痛みが続く患者がいたことよりCP用紙に翌日までノドの痛みが続くような時は、連絡するように記載を追加した。 従来説明用紙・CP用紙は共に患者に分かりやすく、帰宅後の注意点について行動がとれ、また全体的に読みやすい用紙であると考える。 4.
看護師質問用紙について表2に示す 「口頭説明の複雑さ」の回答では、内科外来看護師はCP用紙で「少し複雑」6名、内視鏡看護師は「複雑ではない」5名であり「口頭説明に時間がかかるか」の回答では、内科外来看護師はCP用紙で「少し時間がかかる」以上が7名、内視鏡看護師は3名であった。 「CP用紙の口頭説明は従来説明用紙に比べてスムーズか」の回答では、内科外来看護師は「変わらない」5名、内視鏡看護師は「少しスムーズ」以上6名であった。「CP用紙のチェック項目の記載」の回答では、内科外来看護師は「必ずしている」3名で内視鏡看護師5名であった。 CP用紙は口頭説明の複雑さでは内科外来看護師と内視鏡看護師で差があった。内科外来看護師はCP用紙の内容が複雑で説明時間がかかるという回答であった。これはCP用紙を使用する際に新たに設けた患者に説明した内容にチェック項目を設けたことで、検査前処置から検査後の説明についての説明漏れが減少し、患者が外来で受けた説明をチェックから確認できることから、内科外来と内視鏡で一貫した関わりができる用紙であると考える。 山嵜は「クリニカルパスの作成に際して、各部門の意見交換を十分に行ないチームのコンセンサス(意見の一致)を得ることが大切」と述べている。 このことから、今後話し合いのもとで内科外来と内視鏡の双方で意見が盛り込まれた内容のCP用紙を検討する必要があると考える。 W.おわりに 今回の患者調査で、従来説明用紙による説明後帰宅した患者は、指定した行動をとっていた。また、新たに作成したCP用紙は患者の検査説明用紙として使用でき、かつ看護師側では、安全に検査を行うための説明漏れ防止のチェックにも有効であった。患者と看護師が共有できる用紙としてさらに改良していきたい。 引用文献 1)山嵜絆編集:できたよ!!クリニカルパス1から始めた事例集、メディカ出版、P5、2002年 参考文献 1)田中三千雄:消化器内視鏡看護、日総検、2002年 2)日野原重明編集;外来・継続看護のアート、中央法規 3)藤本敦子ら:患者看護師とのクリニカルパス評価相違点、第33回日本看護学会論文集、成人看護T、P95〜97、2002年 5.緊急内視鏡クリニカルパスを作成して −記載状況と改善点について− 富山県立中央病院 救命救急センター 内視鏡技師 ○永多 節子、浜田 佳寿美、吉田 明美 看護師 表寺 誠一、萩原 由美子、大井 きよみ 医師 萩野 英朗 T.はじめに 当院救命救急センター(以下救命センター)では、平成15年4月から出血性胃十二指腸潰瘍と診断された患者に対しクリニカルパス(以下パス)を使用してきた。 しかし、平成15年4〜10月までの夜間、休日に緊急内視鏡を行った87件のうち出血性胃十二指腸潰瘍と診断されたものは15件であり、全体の17%で、残りの83%はパス適応外の胃・食道静脈瘤破裂や胃潰瘍・十二指腸潰瘍・マロリーワイス症候群等であった。一つの疾患だけではパスの適応率が低かった。 そのため、全ての緊急内視鏡に使用できるパスを平成15年12月に作成した。しかし、記載状況を分析した結果、観察、処置業務が優先となり記載率が低く、責任の所在が曖昧でパスの機能を十分発揮していないのが現状であった。 そこで今回、改善点について検討したのでここに報告する。 U.研究目的 パスの有効活用により患者の状態を予測しながら緊急内視鏡が安全、迅速に実施できる。 1.パスの槻要 2部構成で、1部目は、検査前の医師の指示項目を記載した「救命センター用」(図1)で、2部目は、内視鏡検査結果、処置内容、検査処置後の指示を記載した「内視鏡室用」(図2)である。 1)救命生検センター用パス @パスの適用範囲を上部消化管・S状結腸・全大腸すべての緊急内視鏡として、チェック欄を追加した。 A使用開始については、内科(消化器)医師および外科医師が、緊急内視鏡を決定した時点とした。 B従来の内視鏡室申し送り表の使用をやめ、パスを用いての申し送りとした。 C処置欄に、酸素投与不要、酸素投与要の項目を追加した。 D指示医師が明確になるように、医師サイン欄を指示項目の下に移動した。 E指示説明欄を確認事項欄とし、内視鏡室申し送り表の中の、抗凝固剤内服の有無、出血傾向、義歯除去、腹帯、コルセットの除去の項目と、更に家族待機の項目を追加した。 F抗凝固剤内服の有無、出血傾向は、転記による記載ミス防止と記録の効率化を図るため、それぞれ同意書・データー参照とした。 Gバイタルサイン、症状、備考欄を時間軸に当てはめて記入し、センターでの経過がわかるようにした。 2)内視鏡室用パス @救命センター用パスと同様に、上部消化管・S状結腸・全大腸のチェック欄を追加した。 A内視鏡検査欄の処置内容に、EVL、SBチューブ留置、異物除去の項目と、その他の欄の指示欄を追加した。 B内視鏡検査欄の角項目は医師に直接記載してもらうことで、正確に申し送りができるようにした。 C記載した医師が明確になるように、医師サイン欄を内視鏡検査の各項目の下に移動した。 Dバイタルサイン、処置、観察欄を時間軸にあてはめて記入し、内視鏡室での経過がわかるようにした。 3)緊急内視鏡における検査、治療の指標となる、アセスメントツール(図3)を作成し、予測される急変や緊急処置に対し、速やかに対応できるようにした。 V.研究方法 調査期間:平成16年4〜6月 調査対象:緊急内視鏡施行患者30件 調査内容と方法: 記載状況については救命センター用の検査、輸液欄をA、輸血から医師サイン欄をB、確認事項をC、バイタルサイン、症状、備考欄をDとした。内視鏡検査室用の内視鏡検査欄をE、バイタルサイン・処置・観察欄をFとし100分率で評価した。 W.結果 1.
救命センター用パス 1)
B欄は40%だった。緊急内視鏡検査の実施が決定した時点で、すでに必要な指示が日当直医師から出されているため、パスに医師サインが記載される事が少なく低くなっている。 また、看護師もパス移行時点で、医師の指示を救急患者搬送依頼受票からパスに転記しているが、輸血、処置、安静度については、指示がない場合、空欄のままとしてることから未記入となっている。 さらに、医師指示項目のチェック欄が、指示欄と指示受け欄に分かれていないことも記入されない原因の1つである。 2)
C欄は52%だった。内視鏡に必要な必要な書類は一目でわかるようになっており、確認チェック欄は記載できていた。 しかし、義歯除去や腹帯、コルセット除去などの部分は、記載方法が充分理解されていないため、確認はしているがチェックしていないことが多いと思われる。 3)
D欄は24%と低かった。診察、検査の結果、緊急内視鏡が決定された場合、最初に担当した看護師から内視鏡を担当する看護師へ引き継ぐ時に、責任の所在が曖昧となり、バイタルサイン、症状、その他必要事項欄の記載、特に、内視鏡室搬入前のバイタルサイン、症状の記載欄が不十分となる。 また、救急当番日で明らかなマンパワー不足の時や、早急な止血処置が必要な時など必要項目、経過漏れなく記載することが難しい現状である。内視鏡後、入院が決定した時は救命センターに帰室後の患者状態や、バイタルサインを救急患者搬送依頼受票に記載するため、入院前のバイタルサイン、症状の記載率が低くなったと思われる。 4)
外科からの緊急内視鏡は平成15年4月から11月までの期間は0件であった。パスを作成してからの平成15年12月から平成16年6月までの期間が10件であった。外科医師も使用するため各科の共通理解が必要である。 2.内視鏡室用パス 1)
E欄は67%だった。検査結果、処置内容、検査処置後の指示欄はほぼ記載されていたが、医師サイン欄の記載率は低かった。 2)
F欄は78%だった。夜間、休日において、マンパワー不足の場合には、内視鏡室看護師に協力要請を行なっている。パス対象となる救命センターからの緊急内視鏡件数は、平成16年4月から平成16年6月までの間に、救命センター看護師対応が71%、内視鏡室看護師対応が29%であった。夜間、休日のほか、平日の日中では、内視鏡室用パスの記載はおおよそされていたが、バリアンスの記載率は低かった。 また、止血処置の介助や患者観察に集中するため、バイタルサイン、処置、観察など経過を記載する余裕がなくなり、さらに検査、処置終了後直に救命センターへの帰室が必要なときには、記録が不十分で終わってしまい評価、検討がしにくいのが現状である。 平成16年4月より緊急内視鏡時は全例に対し医師、看護師3名以上で対応となり、以前に比べて止血処置、患者観察、経過記録に対し不安なく的確に対応できるようになった。しかし、マンパワー不足の時は協力体制となり手術室看護師など誰が来ても記載できる様式の工夫が必要である。 Y.結論 内視鏡に携わっていない看護師もパスを使用する事で観察項目、内視鏡検査前の処置、検査説明、精神的ケアを明確にすることができた。 パス記載状況の結果から、医師の指示やサイン漏れ、看護師の確認事項の漏れ、内視鏡検査室搬入前や入院前のバイタルサイン症状の記載漏れが明らかになった。 以上のことを踏まえ、具体的な今後の改善点は 1. 指示漏れ解消の為、医師指示欄、看護処置欄を救命センターからの時間軸とする。 2.
患者の状態が継時的にわかるように、救命センター入室前からの症状チェック項目を作成する。 3.
症状のチェック方法を、有、無でチェックする。 4.
入院前のバイタルサインを記入欄を、内視鏡室用のパスの中に入れる。 5.
パスを有効に活用するためには緊急内視鏡に携わるスタッフに充分説明しパスの使用方法を共通理解し記載できるよう働きかける。 6.
アセスメントツールは、プレショック等、緊急事態にも対応できるよう教育の指標として広く浸透させていく。 7.
突然の出血など、患者や家族の不安も強い為、一連の経過や検査の流れが理解できるように患者、家族用パスも早急に作成する。 Z.おわりに 以前使用していたパスに比べると、救命センターにおける利点や、前進は見られた。 しかし、経過や状態などの情報不足から来る事故を防止するためにも、パスの記載方法の工夫を行い、サインまでしっかり記載していく必要がある。記録の充実と、情報の共有化をはかり、緊急内視鏡治療に携わるスタッフに、わかりやすく使いやすい新パスを現在作成中である。 参考文献 1)
田中 三千雄:消化器内視鏡看護 基礎から学びたいあなたへ、日総研出版、2003 2)
武藤 正樹・他:基礎からわかるクリティカルパスとケア計画@、照林社 2001 |