ザ・ワンダーランドレンジ(オーストラリア) 

                                  平成15年8月2日(土) 晴れ

     登山口(11:10)→ザ・ピナクルズ(12:15〜30)→登山口(13:25)
 オーストラリア研修の引率でメルボルン近郊に滞在していた時、どこかの山に登りたいと色々考えていた。できたらザ・グランピアン国立公園に1泊して、2,3の山に登りたいと思っていたが、個人行動をするわけもいかず、同行のNさんと添乗員のKさんの3人で、日帰りで行くことにした。
 ガイドブックに10時からアボリジニーの壁画を巡るツアーがあると書いてあったので、それに間に合わせようと6時半にホテルを出た。オーストラリアは冬なので、もちろん真っ暗である。やがて、牧場の一角から真っ赤な太陽が顔を出してきた。早起きをしないと見られない荘厳な朝の風景である。
 バララットを経由して国道8号線に入り、ザ・グランピアンに向けて124号線にはいる。道はどこまでもまっすぐで、対向車もほとんど無い。10時間に合うようにNさんの運転が心持ち焦っているようにも見えたその時、前からパトカーがやって来た。やり過ごすと、なんとUターンして追いかけて来るではないか。日本では考えられないことである。情け容赦なく罰金256$を取られてしまった。大ショック。Nさんはアルコールの検査までさせられていた。(後で分かったことだが、Nさんはヴィクトリア州内では1ヶ月の免停であった。)
 当てにしていたツアーは9時発に変わっていて、とっくに出発してしまっていた。踏んだり蹴ったりである。気を取り直し、公園の中心地であるホールズギャップでパンと飲み物を買ってざ・ワンダーランドレンジの登り口に行く。
 いきなり木製の橋が現れ、小川を渡る。しばらくは小さな小川をつかず離れず歩いていく。岩がゴロゴロしているが、迷うことは無い。すぐに「グランドキャニオン」と呼ばれる大きな岩壁に出る。たいそうな名前だが、もちろん本家とは比べものにならない。赤茶けた岩は、昔アウトバック(オーストラリアの内陸部)を旅した時の風景を思い出させる。
 眺望の良い岩山に出ると、道はグァムツリー(ユーカリ)の林の中の穏やかで気持ちの良い道に変わる。小鳥がさえずり、小さな滝が流れている。頂上直下には「サイレント・ストリート」と呼ばれる大きな岩壁にはさまれた狭い道に入る。なるほど一瞬音が消えて、不思議な世界に迷い込んだような気になる。
 「サイレント・ストリート」を抜けると平らな岩畳の頂上部に出る。突端に「ザ・ピナクル」と呼ばれる展望台がある。ワニの背中のように突き出た岩に、転落防止の柵が巡らしてある。柵につかまりながら恐る恐る突端まで行く。眼下にはグァムツリーの深緑の絨毯が広がっている。木が切り倒されて黄緑に見えるところは牧場だろう。右手奥には人造湖の「ベルフィールド湖」が見える。左手を見るとひやっとするほどの絶壁。今年の春に登った荒船山のトモ岩展望台からの景色に似ている。
 革靴でここまで来てしまった添乗員のKさんはこの景色をどんな思いで見つめていることだろう。「自分の足でここまで来た値打ちはあるでしょう」と声を掛けたかったが、何だか押しつけがましいのでやめにした。