笠ケ岳(2897m) 深田百名山


2006/9/28
、29

「あ、あ〜っ!ない!」
深夜1時の新穂高温泉無料駐車場で呟いた。
ザックの中のワインオープナーを探していて、ヘッドランプを忘れてきたことに気がついたのだ。
ヘッドランプ、レインウェア、そして水筒。
これらは、3種の神器として、
日帰りにも、山頂アタックのときも、
これまで、一度も忘れたことがなく、必ず携行していたブツなのに。

ひとりでできるかもシリーズの第4回目。
最初は、十数年前、夏に札幌へ行った組合の出張に続けて3日間夏休みをとって、
小樽、富良野あたりを歩いてみたくて、
ホテル代を考えたら、
テントを買ったほうがいいと思い、
札幌でテントを買ったものの、
その北海道以来、使うことがなかったから、
たたみシワを伸ばそうと、白山でテント泊したのが始まり。

その頃は、山岳部には入ってなかったけど、
山岳部のH谷川さんに北穂高岳や尾瀬に連れて行ってもらったり、
小浜から京都まで歩いたり、
オートキャンプなんかしてたから、
テント泊に躊躇はなかったね。

でも、なんで、装備が重いのに一人で山に登って、「ひとりでできるかも」するんやろ?
話し相手もいないし、
きれいな景色をいっしょに見る相手もいないし、
夜、テントの中で暇だし、
テント場に、自分のテントがたった一つだけじゃ、
風でテントがはためく音だけで薄気味悪いし。
特に、理由を付けてやってる訳じゃないけどね。
たぶん、自分1人でどこまでやれるか試してるんだと思うよ。
じゃなくて、1人で登るのが気ままにできて楽だからかもよ。

登る山を決めて、日程、食事、装備と交通手段を考えて。
だけど、ちゃんと決めても、
そのとおり、実行しようとしないから、
食料は余るし、スケジュールどおり進んだことがないしね。

しかも今回は、装備を思いつくままにザックに詰めて、
最後に確認しなかったから、
ブツは小さいけど、大きな忘れ物になっちまった。
日暮れまでにテント場に着かなかったら、
時代劇のドラマで見た提灯みたいに、
ランタンをストックの先につけて、
道を照らしながら歩かなあかんがな。

車の中から見上げた夜空には、神戸のルミナリエかと思うほどの星がきらめいてた。
とにかく、ナイトキャップとしてワインをカップ1杯飲んでから、
狭い車の中で少しでも楽に寝れる体型を探しながら目を閉じます。
ここは、深山荘前の川沿いの登山客向けといわれる無料駐車場。
周りは平日なのに駐車場は8割の入りです。

明るくなって目を覚まし、身支度を整えて、
川沿いの道を歩いて、バスターミナルのおみやげ屋を左に。
右へ行くと新穂高ロープウェイ。
一般車両が通れない林道をひたすら1時間ほどほぼ水平に歩くと、
笠新道の笠ヶ岳登山口にたどり着きます



笠新道登山口

ここの水場で、水を補給するけど、
秋になると山頂の雪渓がなくなり、テント場の水場がなくなるから、
2日分ということで、3.5リットル詰めました。
そのほかに、スポーツ飲料500ml、ワイン700mlが入ってるから、
飲み物だけで4.7キログラムもかよ!
これで、ザックは、19キログラム超になってしまった。
背負ってみたら、
おっ、重すぎ・・・る。
足が地球にめり込みそう。

さて、この笠新道、急登で有名なコースです。
1,350mの笠新道登山口から2,750mの笠新道分岐まで、
途中の杓子平でいったん水平に歩くものの、
づづら折れの急坂な登山道が続きます。


こんな道がずぅ〜っと続く

ザックが重くて、腰や膝からミシミシと軋む音が聞こえてきそうです。
普段は、1時間に1回の休みを入れるんだけど、
今回は1時間も歩く気持ちが続きません。
せいぜい30分が限界でした。
基本は、辛かったらゆっくり歩いて、
休みを多くしたりしないんだけど、
そんなの構ってられません。
でも、休みが多い分、腰を下ろさず、ザックは担いだままの5分の休みにしました。
休んだ後の歩き出しがダルくてもいいんや。

休みを多くしても重いザックの担ぎ下ろしをしたくないから、
水の補給は、ハイドレーションにしました。
ザックの中の水筒にチューブを付けて、外に出し、
歩きながらでも水が飲めるスグレものです。

9月も終わりで涼しいのに、汗は頭や顔の毛穴から噴き出し、止めどなく滴り落ちます。
この山から湧き出した水を飲み、再び山に返してるんです。
せっかく担ぎ上げたのに、山に撒いていること。

ただただ、登りの道がずーーーっと続いて、
写真を撮る気にもなりませんって。
途中に槍や穂高が一望できるビューポイントがあるけど、
今日は、ガスガスで何も見えませんよ。
突然、視界が広がって、杓子平にたどり着きます。



杓子平

やっと、ザックを下ろして大休止できるッス。

しばらく平らな道を歩いて、再び登りに取り付きます。
ここで、右膝のすぐ上の筋肉が痙攣し始めたので、
またしても休憩になりました。



顔を出した笠ヶ岳

抜戸岳への分岐点を過ぎて、ようやく水平の道になりました。


分岐点付近からスジ雲

ハイマツの中の道を行くと
道の脇に杓子平までで抜かれたおじさんが1人で座って、
笠ヶ岳山頂を眺めていたので、
傍に立って山の話をしました。
71歳の方で、百名山は終わり、再来年にキリマンジャロを登るそうです。
そこに、中高年夫婦がさしかかって話に加わりました。
こちらの奥さんも71歳ですが、こちらの夫婦は足が弱ってきたから、
もう登山は止めようかと思ってるそうです。
同じ年でも色々ですね。


笠ヶ岳への稜線

山頂までの尾根筋がよく見えて、綺麗この上ないですよ。
あ〜、来てよかったぁ!




ここからは、
両側が切り立った個所もあるけど、目を閉じて歩かない限り大丈夫です。

ゆるいアップダウンを幾度か繰り返すと、
目の前に石垣のような急な登りが広がり、その上に山小屋が見えます。
急な登りの手前がテント場になっているけど、1張りもテントがないよ・・・。
やっぱり、夏山と秋山の間だから人が少ない?


笠ヶ岳山荘

見上げる左手には、
丸っこい笠ケ岳の頂上がガスの中から現れたり消えたりしています。
笠ヶ岳山荘でテント場の受付をしたら、
テント場利用者には、無料で水を分けてくれるって言われました。
え〜っ、そんなぁ〜、せっかく担ぎ上げたのにぃ・・・。
気分は、一気に急降下です。

山荘の外に出たら、笠ヶ岳頂上がクッキリ見えてます。
さっきまでは、ガスがかかっていたのに、風で消し飛んだようです。
このチャンスにと、急な坂を駆け上がりましたよ。
ハァ、ハァ、ハァ、・・・。



笠ヶ岳山頂


岩々の頂上には6人ほどがいて、
代わる代わる記念写真を撮ってます。



記念写真ポイントですよ

槍、穂高は、ガスに隠れて見えません。
でも、風が吹いているから、ガスが切れるときがときどきあるので、
しばらく待ってみます。

ガスが切れそうになるとカメラを構えるのですが、
瞬く間にガスに包まれてしまい、
そんなフェイントをかけられて何度目かに、
ようやく槍、穂高の全容が現れましたよ。
さあ、みなさん。バシバシ、シャッターを切ってくださいよ。


槍、穂パノラマ
槍、穂高、焼岳、乗鞍岳、黒部五郎、薬師岳、剣岳、立山、そして白山まで見えてしまいました!
(正確には、「見えているらしい」。横で解説してくれるオッチャンによれば・・・。)
とにかく、「星!俺は今、最高に感動している!」by伴宙太です。

テント場に戻ると、もう1張りだけテントがありました。



我が家です。

テントに戻ったら、入り口を槍、穂高に向けて開け放ち、1人乾杯ですよ。
本日のメニューは、牛丼とキムチ鍋です。
夜は、ランタンを燈して、本を読みながら、ワインがぶ飲みでした。
そうして、おやすみなさい。

翌朝は、ご来光を見ることもなく、グダグダしながらゆっくり起きて、
テントを出て周りを見回したら他のテントはなくなっていました。
今日は、降りて帰るだけだから、いいんです。



テントから笠ヶ岳山頂

登ってきた道を今度は降ります。
急な登りだっただけに、降りも急でした。当たり前。




笠新道登山口に着くとテント場にもう一つあったテントのオーナーが休んでいました。
挨拶して、新穂高温泉まで1時間ほど歩きながら話をしました。
立山から入って、
薬師岳、黒部五郎岳、三又蓮華、水晶岳、鷲羽岳、槍ヶ岳、笠ヶ岳などなどを
テント泊しながら歩いたそうです。
すんごいですねぇ。

駐車場に戻り、吊り橋を渡って川の反対岸に建つ深山荘の温泉に入りました。
川岸の露天風呂で混浴ですが、男しかいません。
仕事でこのあたりに赴任してきて、温泉めぐりしている人や
高山から温泉に入りに来た人や
奥穂高岳からジャンダルムを越えて西穂高岳に降りてきた人たちと
ボヤンと温まってきました。



     ↑ダンナ   ↑混浴風呂     ↑川     ↑奥さん

高山の人は20歳代後半で、奥さん連れで来ていて、
奥さんは女性専用風呂に入った後に
服を着てダンナの入っている露天風呂の傍まで来たんだけど、
ダンナが奥さんに「入ればいいのに」って言うんですよ。
いや、入ればいいけど、いや、でもオイラはなんだか居づらくなるし・・・。
そしたら、奥さんは風呂の傍で風景をスケッチし始めたから、
オイラは風呂から出にくくなって、
そのうち、熱くてたまらなくて、出ようとしたときには、
きっとオイラのお尻は奥さんの視界の中にあったはず・・・。
あ、あ〜、ダビデ像。

そんなこんなで、ひとりでできるかな4回目完了ですよ。
次は、2泊3日で稜線歩きをしたいですね。



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