SERIES TITLE

荒野の五人
「――あいつらだ!」

 通りすがりの酒場の見知らぬ誰かが、そう叫んだ。
荒野の15分
「ちょっと……俺らって一日中こんな状況なワケ?」
「文句ならウチのリーダーに言えっての。入ろうって言ったのはあの人だろ」

 二人が向かい合って溜め息を落とした丸いテーブルには、まだ手の付けられていない食事が並んでいる。

「……呑気に食事もできんなぁ」
「「誰のせいだよ!」」

 見事重なった痛烈なつっこみ、勢い良く立ち上がった拍子に倒れた椅子ふたつ。
 これが合図となった。
 汚い野次を口々に、近隣を根城にする無法者たちが、一斉に武器を構える。
 銃剣を手に真っ先に飛び込んでくる男に向かって、太一が投げつけたビール瓶が派手に砕けた。

「邪魔!」

 山口が開口一番、ちんぴらとテーブルとを、まとめて足で蹴り上げる。
 軽い銃弾は、盾代わりとなったテーブルに溝を作った程度で済んだが、食事の皿たちは出来立ての夕飯もろとも、むなしく床に散らばる。

「あーあ……せっかくのディナータイムが。ごめんねマスター、食事代払うわ」
「ああ……構わないよー、こういうの慣れてるから」

 カウンターのベストな位置に背を預けて隠れる、酒場のマスター。
 なるほど、慣れているとは言いえて妙で、良く見れば、酒場のあちこち、所々が真新しい木板で継ぎ接ぎだらけ。
 それでも、苦笑が混じるほどの余裕はあるらしい。

「店、壊されるのは、勘弁なんだけど……」
「あっちの人たち無駄弾撃ちすぎなんだもん! これ店壊れるの仕方ねーわ」
「……あ、そう」

 太一があっさりと口を挟んだ当然の分析結果に、マスターの悲しそうな笑顔が付いてくる。
 横目に、反撃の隙を窺う山口だが、なかなか発破音が鳴り止まない。

「……この辺の一味って、党派争い中じゃなかったか?」

 割合と統率された銃撃戦を仕掛けてくるのだ。
 数で劣るとやりにくい。
 山口が舌打ちすると、マスターの応答が投げかけられる。

「最近、隣地区の一匹狼が決着つけたらしくてね。凄腕だって話」
「隣……って言うとB2区?」
「えーと、確か”坂本”って名前だったかな」

 何だか聞いたことあるような、と、さして興味なさそうに記憶を辿る太一だったが、
 直後、愛銃を取り落としそうになってまで、はたと気がついた。

「あー! だいぶ前に、リーダーに敗けたヤツだ!」

 テーブルに一人取り残され、びしびしと突き刺さる無数の視線。
 城島の肩が、迫り来る戦慄にびくりと、大きく振れる。

「……リーダー?」
「まさか知ってて、この町来たってことは……無ぇよな?」
「ちょ……いやまさか、なぁ! 待て山口、銃口の向きが違う!」

 洒落にならない状況に、城島が激しく慌てる一方で、無法者一味と無法者との間に挟まれる、一般ちんぴらはうろたえるばかりである。
 内輪もめを掻い潜り、我先にと、武器を持つ輩に群がってくる。
 テーブルの影にこじんまりと身構えた太一のところにも(否、そこにのみ)、次から次へと、無法者共が押し寄せてくる。

「あーこらッ! 俺のレミちゃんに触んな!」
「……太一、いーかげんその、銃に名前付けるの……やめん?」

 しかも太一が“レミちゃん”と呼ぶ銃火器は、およそ愛称にふさわしくない、全長1mを超える回転式の散弾銃なのである。
 せめて見合った名前を付けたら良いのに、と城島がこっそりつぶやくのを背に、太一は酔っ払いから死守した通称・レミちゃんのセーフティを、素早くその場で放つ。

「おわ、危ねッ!……太一、狭いとこで撃つな!」
「山口くんなら避けてくれるでしょ?」
「バカ! 避けれるか!」

 と、その非難を真っ向から砕くショット一発が、今まさに彼を後ろから狙っていた大男に命中し、山口は肩をすくめる。

 散弾銃をこの限られたフロアで、一般人に掠りもさせない太一の技術も相当なものだが、もっとも、山口の精密極まりない速射に勝る武器は無い。
 すっかり壕と化したテーブル壁の合間を、まさしく的の急所のみを狙って撃ち抜く正確さ。

「無駄弾撃つなや、ふたりともー」
「……はいはい」
「まかせとけって」

 軽く言いやった山口が、短く息を吸い、間髪入れずトリガーを引く。
 着実に敵数を減らしてはいるものの、切れ間無く飛んで来る大量の銃弾雨。
 首を引っ込めては、思わず変わりようの無い残弾を数えてしまう悲しい性が、染み込んでいた。

「てゆーか……たまには弾代、気にしないで撃ちてぇよな」
「ま、ぼくらは家庭的がモットーのガンマンやから」
「そんなガンマンやだよ」

 (弾代をケチるリーダー・城島の元に集ったガンマンたち、合言葉は一発必中である。)

「リーダー、流れ弾に当たんないでよね」
「おー」

 呑気に手を振ってみせる城島は、腰に下がったホルスタの革にすら、手をかけない。
 だが、山口と太一は、それを気にした様子も無い。
 知っているのだ。
 彼が銃を手にするのは切迫した身の危険が急き立てるときか、明確に打ち抜く的を定めているときか、そのどちらかだけで、そんな日には、半径20m、人っ子一人立てなくなる、という恐ろしいかな真実。

「リーダーが銃持たないうちに片付けないと、でしょ?」
「……まったくだな」

 二人は改めてコトの次第を確認、互いに大きく頷き合うと、銃をしっかと構えやった。
 一瞬の間の後に、再び激しい銃撃戦が起こる。

 さて、そんな戦場。
 ぽつんと、店のほぼど真ん中に無傷で残る、椅子と、城島。
 さながらフライングゲームのように、頭上をライフルやら拳銃やらの弾が飛び交っている中、

「やれやれ、血気盛んやなぁ」

 城島は独り黙々と樽カップを傾ける。
 その眉間にコンと、硬い金属が突き付けられた。

「……ん?」

 横寝かせの銃口が城島を捉えた。
 距離はわずかに数p、外しも避けも出来ないだろう。
 勝った、間違い無くそう思ったはずのにわかガンマンが、逆に震えだすのは時間の問題であった。

「……ねぇ山口くん」
「……何も言うな、太一。あ、マスター。ここ地下蔵ってある?」

 二人のチームメイトがそそくさと避難準備にかかり出す最中、この、あまりにも唐突な銃弾の雨上がり。
 しんと静まり返った一陣の冷たい風が、室内を吹き抜けた。

 薄く笑った口元で、城島が静かに振り向いていく。
 さながら地獄の番犬のようであった(運良く生き残った男の後日談)。

 男は口角引きつったまま、だが銃を下ろさないでいると、
 城島は「マスター」と声を挙げてから、それからふいに、左手でカップを掲げた。

「酒を一杯」
It Continues...?
リーダーの銃はブラックホークなのです。かっくいー!(異次元)