6.
翌朝、起きてみると、青年はどこにもいなかった。窓から射し込む日差しが緩い。
カーテンを開けると、ベランダの手すりの上に、あの青灰色の鳩が、ちょこんととまっていた。
やっぱり、戻ってきてくれた。
そっとガラス戸を開けて、口に出す。
「鳩」
相変わらずびっくりしたような眼で、こちらを一瞥する。
伝書鳩の通信管は、空っぽだ。
これから先、太一くんから電話がかかってくることは無い。
絵葉書には、兄ぃのメッセージだけが添えられるようになるだろう。
太一くんの、あの、誰にも真似出来ないような笑顔で、オレを呼んでくれることは、二度と無い。
もう、太一くんはいない。
それだけのことを認めるまでに、一夏かかったのだ。
暑い夏。
オレは氷漬けにして、冷蔵庫に入れた。
大丈夫、きっといつでも、解凍できる。
「……鳩」
結局、名前すら付けられなかった。
「来い」
無造作に伸ばした手に少しだけ反応して、鳩は手すりに飛びかかる。
空の書管を着けた足を軽げに、7階の空を力強く捕らえるように、鳩は大きく翼を広げた。
The end.
相反する題目でもある幻想とミステリー。こういう話が書きたいんですよ……!