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灯台守
 じゃあ、アナタには“道標”を。
-1-
「何やコレ」

 瞬間、我に返った城島は、わざとらしく瞬きを繰り返した。
 そこは、病院ではなかった。
 かと言って、どこか別の建物の内部でもないようだったし、街路ではあったようだが、病院の近辺でもないようだった。
 現在位置も分からない、謎の空間。

 城島は、その日も、病院の角張った廊下をぺたぺた歩いていた。
 何も考えずに、目的の病室へと、ただ歩いていただけのはずだった、のだが。

「……夢、やなぁ?」

 かくりと傾いた目線の先は一寸先も闇。
 人1個分の通路が、不揃いに並ぶ街灯でかろうじて浮かび上がる、夜のしじま。
 時既に遅し、城島は、突如、夢か現かも分からない世界に立ってしまっていた。
 俗に言う、パラレルワールドである。

「んなアホなっ」

 ピシ、と隣の透明人間に、関西人の条件反射・つっこみを入れてみたものの、後が続かない。
 一人漫才のようで、寂しい。

「……すみませんー」

 闇の向こう側に誰かいるような気がして、小声で呼びかけてみたものの、返答らしき物音もしない。
 何かが動く影もない。ますます、心細い。

「よし、夢やな」

 自分を納得させるためだけに、大きくうなずいた城島は、とりあえず歩き出すことにした。
 どこまでも続くと錯覚させるかの道路は、アスファルト。
 左右にあるはずの壁や路側帯は見当たらず、街灯は並ぶが電柱はない。
 それこそ、微かに繋ぐ灯りが無ければ、道という判断すらつかないだろう道である。

 暗黒に閉ざされない程度に、仄明るい水銀灯が足下を照らしてくれている。
 不思議と、気持ちが落ち着いてくる。

「……あ」

 はたと立ち止まった。
 いつの間にか、もう十数メートルほど前に明りの集合体が浮かび上がっている。
 家、らしかった。

 城島は、自分が取りうる数少ない選択肢のひとつに、その家のドアを開けるという行為が含まれていることを、知っている。
 誘導されているようで悔しいが、もはや、事態を打開するために必要な最善にして唯一の行為なのである。
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