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灯台守
  きっと、もう忘れてしまっているんだろうな。

 待つ、という行為に慣れてしまった体内時計は、午前7時ぴったりを指している。
 今日こそは、今日こそは。
 そんな当ての無い期待を、朝靄のかかるアスファルトの路の上に、いくつ捨ててきたのだろう。
 血の繋がりが大切だったわけじゃない。
 そんな理由で、あの日、家を飛び出したんじゃない。
 この手に余るほどの、確かな証拠が欲しかった。

  今となっては、もう気づくこともないのだろうけれど。
 血縁が、これほどまでに鬱陶しかったことは、過去に無い。
 赤の他人になら容易く壊せる壁に、ヒビ一つ入れることも出来ないのだから。

  多分、もう何を言ってやることも出来ない。

 変わらないと高を括っていた天秤は、思っていたよりも不安定なバランスで保たれていたらしい。
 そうして、あっと言う間に1年が過ぎた。

  このまま、もう全て終わってしまえば良いのに。

 規則的に、二つの部屋を往来するだけの1年に、前進などなかった。
 じりじりと、見えない速度で後退しているだけだ。他ならぬ、スタート地点に向けて。
 どの選択を取ることが、最良だったのか。
 答えはない。誰にも聞けない。
 それでも良い、と思っていた未来の延長線上で立ち止まって、ただの一歩も踏み出せずにいる。

  きっと、もう忘れてしまっているんだろうな。

Ignition.